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ただ互いに憎み合っていただけなのに、周囲が勝手に溺愛だと勘違いし、愛の権化のように崇拝されました。  作者: 逆立ちハムスター


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ロストプリンセス

別荘での「ガチの殴り合い(という名の豊穣神事)」によって、魔力の詰まりと積年のストレスを解消した私たち。皮肉にも肌のツヤは過去最高、心身ともに軽やかな状態で王都へ戻ると、そこには新たな「厄介事」が、救いを求めるような瞳で待ち構えていた。


王都の正門に、見覚えのある紋章を掲げた馬車が滑り込む。

降り立ったのは、数年前に海上貿易の要所へと嫁いだ王族の姫君・カサンドラ様。

かつては天真爛漫だったその表情も、今や冬の海のように凍りついている。


「……公爵、公爵夫人。いいえ、聖夫婦せいふうふ様とお呼びすべきかしら」


カサンドラ様は、私たちの手を取ると、今にも壊れそうな声で囁いた。


「私は、偽りの愛に絶望しました。政略結婚の果てにあるのは、冷え切った寝室と、背中合わせの孤独だけ……。けれど、遠い異国の地で聞いたのです。お二人のことを。毒を盛り、剣を向け、それでもなお死さえ分かち合おうとする『真実の愛』が存在するのだと」


((……ああ、また一人、犠牲者が))


私は引きつった笑顔のまま、秘技アルカイックスマイルを保ちつつ、心の中で毒を吐き捨てる。

(お嬢様、それは愛ではありません。ただの『生存競争』ですのよ?)


「カサンドラ様、長旅でお疲れのようですわね。まずは我が屋敷で、ゆっくりとお休みになってはいかが?」

アルフォンスが、いつもの「氷の微笑」で彼女を迎え入れた。(このまま王宮へ直行され、変な話を広められては堪らない。まずは隔離して口を封じよう)


しかし、屋敷に連れ帰った途端、事態は悪化の一途を辿る。

カサンドラ様は、私たちが廊下ですれ違いざまに互いの急所を狙って指を動かした(日課の戦闘訓練)のを目撃し、感激のあまり膝をついたのだ。


「……ああ! 今の指の動き! 相手の鼓動を感じようとする、無言の愛の確認なのですね! 私の夫は、私の鼓動どころか、私の存在さえ見ようとしませんでしたのに!」


(違う、今の指使いは『眼球を抉る予備動作』よ!!)


そこへ、聖獣を小脇に抱えたテオが通りかかる。


「……あーあ。また一人、重症患者が。ねえ、このお姉さん、相当こじらせてるみたい。アンタたちの『殺愛』を、純愛の劇薬だと思い込んでるみたいだし」


テオの毒舌に、カサンドラ様の瞳がさらなる輝きを宿した。

「……まあ! この子が噂の『愛の結晶』! 憎しみを乗り越えた先にある、冷徹な真実を見抜く瞳……! なんて素晴らしいご家庭なの!」


カサンドラ様は、私たちの「地獄のような日常」を観察することで、自身の結婚生活を再生させるヒントを得ようと、一歩も引かない構えを見せる。


「……エルゼ。どうする。このままでは彼女、自国へ帰り『夫に毒を盛るのが正しい愛の形』だと勘違いして、国際問題を引き起こしかねないぞ」


「……ええ、アルフォンス。ですが、彼女に真実を説いても『愛ゆえの謙遜』と処理されるのが関の山。いっそ彼女の夫もこちらへ呼び寄せ、私たちの『ガチの殺し合い』に巻き込み、ショック療法で分からせてあげましょうか?」


海上貿易の運命を握る若き夫婦の仲を、最悪の方向(殺愛的解決)へ導いてしまう一歩手前に、私たちは立たされたのだ。

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