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ただ互いに憎み合っていただけなのに、周囲が勝手に溺愛だと勘違いし、愛の権化のように崇拝されました。  作者: 逆立ちハムスター


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インクが乾き、物語は永遠の眠りにつく…

「もう、耐えられませんわ……!」


祝祭の夜、豪華絢爛な寝室に響いたのは、愛の囁きではなく、私の魂の絶叫だった。

鏡に映る自分は、美しく着飾った「聖公爵夫人」そのもの。だが、その瞳に宿るのは、アルフォンスという男をこの世から抹殺したいという、純粋で混じりけのない殺意だけ。


「同感だ、エルゼ。……国民の期待、王妃の心酔、テオの冷笑。数々の虚栄の功績達……すべて終わらせてやろう」


アルフォンスが、乱暴にタイを解き放ち、窓の外で今なお続く祝祭の篝火を睨みつけた。

私たちは、ついに決意を固める。

明朝、全貴族が集まる「感謝の儀」の場において、すべての真実を暴露し、この茶番劇に自ら幕を引くことを。


「『私たちは憎み合っている』。……そう、公衆の面前で叫んでやる」


「ああ。君との結婚生活は、一秒たりとも愛などなかった。……それを国中に知らしめ、清々しく処刑台へ向かおうじゃないか」

「ええ」



翌朝……。








































ではなく、まだ夜。


鏡の前で独白する私の口角は、わずかに吊り上がっていた。

今夜の合意――「明日の儀式で互いに憎しみを告白し、心中する」という約束。

だが当然、私の本命は別にある。

(アルフォンス、おバカな人。あなたが「憎んでいる」と叫んだ瞬間、私は「それでも私は愛していました」と泣き崩れる。そうすれば、あなたは『最愛の妻に毒を盛り続けた稀代の悪党』として処刑され、私は『狂った夫を健気に支え続けた悲劇の聖女』として、あなたの莫大な遺産を手に自由の身になるのよ)


一方、隣の部屋でアルフォンスもまた、冷酷な笑みを浮かべていた。


(エルゼ、詰めが甘いぞ。君が「殺したい」と口走った直後、私はあらかじめ用意した『君が私に盛った毒薬のリスト』を突きつける。私は『妻の殺意に怯えながらも、国のために愛を演じ続けた孤独な騎士』として同情を買い、君だけを奈落へ突き落としてやる)


本当に翌朝……。


王宮の大広場には、私たちの「最後(の嘘)」を見届けようと、数千の民衆と貴族が集っていた。

壇上に上がった私たちは、互いに示し合わせた通り、いつもの「密着したポーズ」を敢えて取らず、一歩離れて対峙する。


「皆様、騙されないで! 私はこの男を呪っています! 毎日、彼の食事に毒を盛り、彼が苦しむ姿を夢見てきた……これこそが真実なのですわ!」


(さあ、アルフォンス! もっと罵りなさい! 私を「悪女だ」と告発して! 私はそこで、用意した特製の目薬で大粒の止まらぬ涙を流し、今までのように、ものの例えの愛だっただけなのに……と、あなたの必死の形相とのギャップで観衆の同情を一気に奪い去ってみせるわ!)


ところが、アルフォンスは予定していた「告発の証拠」を出すどころか、なぜか私の肩を抱き寄せ、震える声で叫び始めた。


「……その通りだ! エルゼ、君の殺意はあまりに美しく、私の魂を焼き尽くす! 私も君を愛してなどいない! 私は君を壊し、君に壊されることだけを願ってきた! このつるぎは、君を貫くためだけに研ぎ澄まされたものだ!!」


((ちょっと待ちなさい、何でそんなに『情熱的』に叫んでいるのよ!?))


アルフォンスも焦っていた。私が「毒を盛った」と告白した際、あまりにも場違いで晴れやかな顔をしていたため、聴衆がそれを「愛の告白」と受け取り始めていることに気づいたのだ。彼は慌てて「憎悪」の度合いを強めたが、それが裏目に出る。


壇上で私とアルフォンスが、互いを処刑台へ送り込もうと形相を変えて罵り合う中、貴賓席では国王エドワードが、ソフィア王妃の手をそっと、しかし力強く握りしめていた。


「……見よ、ソフィア。公爵のあの言葉。『君を壊したい』。……あれは、かつての私だ。君を愛しすぎるあまり、どう扱えばいいか分からず、ただただ戸惑っていたあの頃の予なのだよ」


王妃様は潤んだ瞳を王に向け、その肩にそっと頭を預けている。


「分かりますわ、エドワード。公爵夫人の『呪っている』という叫び……。あれは、愛という名の呪縛から逃れられない自分への、悲しい嘆きなのですわね。私にも覚えがありますわ。あなたを愛しすぎて、いっそ嫌いになれたらどれほど楽かと考えた夜が」


王は深く頷き、王妃様の髪に優しく口づけを落とす。


「公爵夫妻は、あえて醜い言葉を使い、愛の美しさを際立たせている。……ソフィア、予たちも彼らに負けてはいられぬな。今夜は事務的な報告はやめにして、昔のように、庭園で月を見ながら語り明かさないか?」


「……まあ、エドワード。嬉しいですわ」


二人は、私たちの前でキラキラとした「本物のピンク色のオーラ」を撒き散らし、見つめ合っている。

その幸福な光景があるせいで、私たちの「ガチの罵倒」は、ますます「愛の深さを際立たせるための演出」という説得力を持ってしまった……。


「……エルゼ。見ろ、陛下たちが完全に『自分たちの世界』に入っている。……私たちの殺意が、あの二人の蜜月の薪にされているぞ」


「……王族の惚気のろけの踏み台にされるなんて、それが最悪なあなたとの事でなんて、これ以上の侮辱はありませんわ」


純粋な愛を取り戻した王室と、純粋な殺意を愛と誤解され続ける私たち。

対照的な二組の夫婦を乗せた舞台はさらに混迷を極める。


「……ああ、なんということでしょう」


最前列で、王妃様がついに感激のあまり膝をついた。


「『相手を社会的に抹殺したいほどの執着』……。『自分を犠牲にしてまで相手の悪を被ろうとする献身』……! ああ、お二人は今、公衆の面前で『どちらがより深く相手の罪を背負えるか』という、究極の愛の譲り合いをなさっているのね!! なんてこと!!」


…………………。


「そうですわ!」

一人の貴族が叫ぶ。

「夫が妻を『殺したい』と言うのは、『死ぬまで君から離れない』という誓い! 妻が夫を『呪っている』と言うのは、『来世まであなたを追いかける』という告白! なんという高度な比喩……これぞ『殺愛的宣言』だ!!」


(どんな脳ミソしてんのよ!! 私はこいつを絞首台に送りたいだけなのに!!)

(ふざけるな!! 私の完璧な『被害者計画』を、訳の分からない愛の哲学で上書きするな!!)


私たちは、壇上で互いに「早く私を罵倒して処刑台へ追い込みなさいよ!」という合図(目配せ)を送り合った。

しかし、その激しい視線の交差は、観衆の目には「言葉を超えた魂の熱い抱擁」にしか見えない。


「……エルゼ。……無駄だ。我々が相手をハメようとすればするほど、世界がそれを『究極のプレイ』として解釈していく」


アルフォンスが、絶望の淵で私の肩に深く顔を埋めた。

それを見た民衆は「最後はやっぱり、折れて甘えるのね!」と、空に数万の花束を投げ上げたように拍手を送ってくる。


互いを地獄へ突き落とそうとした「裏切りの告白」は、皮肉にも「相手のすべてを肯定し合う世紀の神話の一片」として、王国の歴史に刻まれてしまったのである。

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