愛の試食会
噂話の伝染力は、ペストより早い。
「震えるほど愛し合う公爵夫妻」の噂は、退屈していた王妃様の耳に届き、私たちはあろうことか王宮のテラスで行われる「親睦ランチ会」に招かれてしまった。
「さあ、見せてちょうだい。お互いの好みを熟知した夫婦だけができる、愛の奉仕を!」
ヒソヒソ。
「なんでこの王妃はいつもノリノリなの?」
「私が知るか」
王妃様の無邪気な号令とともに、私たちの前に運ばれてきたのは、相手に食べさせるための特製プレート。
私は、隣に座るアルフォンスに極上の笑みを向けた。
(死ねー! アルフォンス。あなたが重度の青カビ嫌いで、その匂いを嗅ぐだけで三日は寝込むことを私は知っているのよ)
私は、銀のスプーンにたっぷり、「これでもかというほど熟成した、鼻を突く青カビチーズ」を盛りつけた。
「さあ、アルフォンス様。あなた、これがお好きでしたわよね? あーんして?」
対するアルフォンスも、額に青筋を立てながら、真っ赤なソースが滴る「地獄の激辛ハバネロ・コンフィ」をフォークに突き刺している。
「もちろんだよ、エルゼ。君こそ、この情熱的な赤色がお似合いだ。さあ、大きな口を開けて?」(お前の喉を焼いて、二度と嫌味を言えないようにしてやろうか)
私たちは互いに、凶器を差し出し合う。
逃げ場はない。周囲の令嬢たちは「なんて献身的!」と頬を染めて見守っている。
私は覚悟を決め、その「火薬のような塊」を口に含んだ。
「…………ッ!!!」
脳天を突き抜けるような痛み。胃壁が即座にストライキを起こす。
しかし、私は飲み込んだ。そして、涙を流しながら(激痛で)微笑んだ。
「……なんて……スパイシーで……刺激的な……愛……」
「……ああ、エルゼ。このチーズも……鼻に抜ける香りが……君の執念のように……深いよ……」
アルフォンスも、顔面を土気色にしながら青カビを咀嚼している。
それを見た王妃様が、感極まったように叫んだ。
「素晴らしいわ! 互いの欠点(嫌いなもの)さえも愛で包み込み、美味しそうに受け入れ合うなんて! これぞ夫婦の真髄ですわね!」
「「お、仰せの通りです……(この能天気王妃、殺す、絶対殺す……!)」」
私たちは、テーブルの下でお互いの脛を全力で蹴り合いながら、二度目の「あーん」を強要し合うのだった。




