愛の彫像
夜会が明けた翌朝。
屋敷の玄関ホールには、能天気な王妃様が差し向けた宮廷彫刻家と、巨大な大理石の塊が鎮座していた。
──荘厳な新書──
聖地での奇跡、そして昨夜の夜会での神々しいお姿! 私、確信いたしましたわ。お二人の愛は、今すぐ石に刻んで永遠に保存すべきですわ!
──
能天気王妃様からのポエム親書には、眩暈のするような命令が記されていた。
――『二人が最も情熱的に惹かれ合っている瞬間を、一寸の狂いもなく彫像にせよ。完成まで、お二人はそのポーズを維持すること』
(アルフォンス。この彫刻家に、あなたの無様な死に顔でも彫らせてやりたいわ)
私たちは、ホールの中心で向き合う。
彫刻家が「最高に情熱的なポーズを!」と注文をつけるたび、私たちのポーズはより複雑に、より密着したものへと追い込まれた。
最終的に決まったのは、アルフォンスが私の腰を抱き寄せ、私が彼の喉元に手をかけ、お互いの顔を数センチの距離で睨み合う……いや、見つめ合うポーズ。普通じゃん。
「……っ、エルゼ。……いつまでこの格好をさせるつもりだ。腕の筋肉が死にそうだぞ」
アルフォンスが、唇を動かさずに低い声で毒づく。
「……それはこちらのセリフですわ、アルフォンス。……あなたのその、私を絞め殺そうとしている指の力、石に刻まれてしまえばいいのに」(動くんじゃないわよ。あなたが揺れるせいで、私の首筋にあなたの吐息がかかって不快極まりないわ)
数時間、私たちは一ミリも動かずに密着し続けた。
入れ替わりの後遺症のせいで、私はアルフォンスを押し倒さんばかりの覇気を放ち、彼は彼で、私に縋り付くような色気を垂れ流している。
彫刻家は、狂ったようにノミを振るった。
「素晴らしい! 憎しみと愛着が混ざり合った、この極限の緊張感! これぞ、死すら二人を分かつことができない『呪縛の愛』だ!」
((なに言ってんのこいつ))
その時、あまりの疲労と後遺症の眩暈で、私の膝がガクリと折れた。
支えようとしたアルフォンスと共に、私たちは大理石の粉塵が舞う床へと縺れ込む。
「……あ、危ないわね……!」
「……くそ、エルゼ……。重いんだよ、君は……」(目撃者がいる前でチャンスを作るな。今までの狂気じみた誤解のせいで、噂だけで犯人にされかねない気がする)
粉塵の中で、お互いの服を掴み合い、床に組み伏せ合う形になった私たち。
それを見た彫刻家は、天を仰いで叫んだ。
「これだ! 静から動へ! 崩れ落ちる瞬間ですら、お互いを探り、絡み合う指先! これこそが完成形だ!」
「狂ってるのは芸術家だけじゃなくて、それを買う側もって言い得たもんだわ」
「同感だな」
翌週、王宮の入り口に飾られたのは、『崩れ落ちるほど激しく求め合い、土埃の中でさえ抱擁をやめない夫婦』の巨大な彫像だった。
訪れる者すべてが、その「壮絶な愛」の形に涙し、私たちの義務はさらに重く、分厚い石のように固められてしまったのである。
「……アルフォンス。……あの石像、いつか夜中にハンマーで粉砕しに行ってもよろしくて?」
「……無駄だよ、エルゼ。……あれはもう、国宝に指定されたそうだ」
私たちは、石にされた自分たちの「愛」を、殺意に満ちた目で見上げるしかなかった。




