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ただ互いに憎み合っていただけなのに、周囲が勝手に溺愛だと勘違いし、愛の権化のように崇拝されました。  作者: ヒガンバナ


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残響のペルソナ

聖地巡礼から帰還した私たちは、その足で王宮の凱旋夜会へと出席せざるを得なかった。私達に心酔している王妃に頼んで、二人の時間をもっと大切にしたいとかなんとか適当に言って、強制ダンスは無効にしてもらった。


入れ替わりの呪いは解けたはずなのに、数日間「相手の肉体」を完璧に演じすぎたせいで、私たちの神経には奇妙な後遺症が残っていた。


「……エルゼ。君、さっきから歩き方が猛々しすぎるぞ。淑女はそんなに大股で絨毯を踏みしめない」


アルフォンスが、私の耳元で苦々しく指摘してくる。(私の公爵としての威厳に満ちた歩き方を、ドレス姿で再現するのはやめろ。怖すぎる)


「……仕方がありませんわ。あなたのあの野蛮な筋肉の使い方が、まだ足に染み付いているのですもの。……あなたこそ、何ですの? その内股気味の立ち方は。遠方国の女装王太子みたい」(淑女の優雅な立ち方を、男の体でやるんじゃないわ。気味が悪い)

「奴は浮気がバレまいと……彼の友人の妻は君と同じ名だと聞いた。エルザという名は呪われているらしいな」

「あなたも呪ってあげましょうか?」

「もう呪われているさ」


アルフォンスは無意識に、私の癖であった「扇を優雅に操る動き」を、手持ち無沙汰な指先で再現。その仕草は、屈強な公爵というよりは、どこか計算高い毒婦のような艶っぽさを醸し出している。


ところが、これが社交界の令嬢たちの目には、衝撃的な「変化」として映ったようで……。


「見て……エルゼ様のあの凛々しい立ち振る舞い! まるで騎士を従える女王のような覇気だわ!」

「アルフォンス様も……以前よりずっと、ミステリアスで色っぽくなられて。あのお二人の間に流れる、ただならぬ『熟成された愛』の空気……堪らないわ!」


私たちは、お互いの「ガワ」と「中身の癖」がチグハグなまま、奇跡的なカリスマ性を発揮してしまっていた。


聖地での入れ替わりが解消されたとはいえ、中々取れず解消されない「アルフォンスとしての動き」を記憶していた。

豪華なドレスを纏いながらも、私の足取りは軍人のように力強く、背筋は傲慢なまでに伸びきっている。


一方、隣を歩くアルフォンスはもっと悲惨だった。

彼がふとした拍子に見せる、首の傾げ方や指先のしなやかな動き。それは紛れもなく、私が長年かけて身につけた「淑女の媚態」そのもの。


「……アルフォンス、その流し目はやめなさい。気味が悪いわ」(私の得意な『男を惑わす視線』を、公爵の顔でやるんじゃないわよ。威厳が台なしだわ)


「……黙れ。無意識に指が動いてしまうんだ。君のあの、無駄に長い髪をかき上げる癖のせいでな」(お前の肉体感覚が指先にこびりついているんだ。私が女性を誘惑するはずが、これでは誘惑されているように見えるだろうが)


ところが、この「不一致」が社交界に異様な熱狂を巻き起こす。

令嬢たちは、かつてないほど「男装の麗人」のような覇気を放つ私に頬を染め、反対に、どこか危うい色香を漂わせるアルフォンスに、高位の貴婦人たちが群がった。


「見て……エルゼ様のあの、すべてを見下ろすような冷徹な眼差し! まるで戦場の支配者のようだわ!」

「アルフォンス様も……以前よりずっと、こちらの心を透かして見るような、妖艶な仕草になられて。ああ、お二人の愛は、性別の壁すら超越してしまったのね!」


私たちは、お互いを呪いながら、結果として社交界の新たなトレンド(流行)を作り上げてしまった。

愛ではなく、単なる「後遺症」が、皮肉にも私たちのカリスマ性を頂点へと押し上げていくことに。

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