おかえりなさい。愛しいターゲット(死の標的)
巡礼の最終日。王都の門が見えてきた頃、私たちは「聖なる儀式」の締めくくりとして、市民たちの前で聖水を浴びる儀式に臨まなければならなかった。
もちろん中身が入れ替わったまま。
「……いいか、エルゼ。背筋を伸ばせ。傲慢に、だが気高く振る舞え。それが私だ」
「……アルフォンス、あなたこそ。淑女の歩き方は、もっと膝を寄せて……。そんな大股で歩いたら、ドレスが裂けますわよ!」
私たちは、互いに小声で指示を飛ばし合いながら、祭壇へと進む。
神官が、黄金の柄杓で聖水を振り撒いた。
「聖なる旅を終えし夫婦に、神の祝福を!」
その瞬間、聖水が私たちの体に触れた。
激しい静電気のような衝撃が走り、私は思わず「自分」の手を強く握りしめる。
((戻れ……!!))
強い光が弾け、視界が白く染まった。
次に目を開けた時、私の視界は元の「低さ」に戻っていた。
喉の違和感も、肩の重みも、すべてが馴染みのある「私のもの」だ。
「……戻った、のか?」
隣で、アルフォンスが自分の手のひらを見つめ、確かめるように握りしめている。
私たちは無言で、だが本能的に、相手が「本物」であることを確認した。
すると、周囲から地鳴りのような歓声が沸き起こった。
「見たか! 今、お二人の魂が光り輝き、一つに溶け合ったぞ!」
「巡礼の奇跡だ! お二人は今、真の意味で『一心同体』になられたのだわ!」
どうやら、魂が入れ替わり、そして元に戻った瞬間の魔力の残光が、信者たちには「究極の愛の融合」に見えたらしい。
「……チッ。一心同体、だと? 吐き気がするな」
アルフォンスが、口元を拭いながら毒づく。
「同感ですわ。……ですが、アルフォンス様。あなたの体格なら、どこに急所があるか、私、この数日間でじっくり『予習』させていただきましたわよ?」
私は優雅に一礼し、耳元で彼だけに聞こえるように囁いた。
「……おかえりなさい。私の、愛しい標的」
「……ただいま、エルゼ。……君を壊す楽しみが、また一つ増えたよ」
聖地巡礼は終わった。
しかし、私たちの「愛という名の殺し合い」は、聖者の祝福を受け、より洗練された地獄へとアップデートされたのである。




