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【連載完結】ただ互いに憎み合っていただけなのに、周囲が勝手に溺愛だと勘違いし、愛の権化のように崇拝されました。  作者: 逆立ちハムスター


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無名の英雄

「俺はゴルバル。さあ、その手をこっちへ。共に行こう、テオ」


悪魔バルカスが、ヘドロのような甘い声で手を差し伸べる。だが、テオはその手を取らなかった。

絶望に震えながらも、テオの指先はポケットの中にある「仲間の形見」に触れていた。エルゼの扇子の冷たさ、ルナの計算機の硬さ。それらが、悪魔の誘惑からテオの魂を辛うじて繋ぎ止める。


(……この悪魔、さっきから一歩も魔法陣の円から出ていない。それに、あの宝石を見る目は……バルカスさんが『毒』を食らう時の、あの飢えた目と同じだ)


「……断る。僕は、あんたの家畜ニワトリになるつもりはない!」


テオは叫ぶと同時に、踵を返して走り出した。


「待て! 戻れテオ!! 貴様一人で何ができるというのだ!」


背後から、これまで聞いたこともないような怒号が響く。次の瞬間、洞窟の壁が内側から弾け飛び、地獄そのものが具現化したような「赤い肉塊の怪物」が這い出してきた。全身には、無数の人間の「断末魔の表情」が発疹のように浮かび上がり、おぞましい咆哮がテオの鼓膜を震わせる。


「ヒ……ヒッ……!」


テオは転びそうになりながらも、なりふり構わず駆けた。

狭い通路を怪物が破壊しながら迫り、背後からは腐臭と熱気が押し寄せる。落石が肩を叩き、鋭い岩が頬を切るが、テオは止まらない。


ようやく辿り着いた、あの巨大な鍛冶場。

テオは、バルカスの亡骸の横を通り抜け、今なお真っ赤に燃え盛る「巨大な炉」の前に立った。


「これで……終わりだッ!!」


渾身の力で、手の中の黒い結晶を炉の深淵へと投げ入れる。


『よせェェェェーーーーーーーッ!!』


世界が震えるほどの地獄の叫び。

迫っていた赤い肉塊の怪物は、内側から噴き出す黒い炎に焼かれ、悲鳴を上げながらドロドロと崩れ落ちていく。

やがて、バルカスの顔をした影が、最後にテオを呪わしく睨みつけた。


『……今回は、地上での依代よりしろを失っただけだ……。覚えておけ、テオ。お前が絶望を抱え続ける限り、俺は何度でもお前のすぐ隣に……』


その言葉を最後に、悪魔の神は霧散した。

後には、あの「脈打つ黒い触手の塊」が、焼けた床の上で力なく蠢いているだけだった。


テオは肩で息をしながら、震える手でそれを拾い上げた。熱い。だが、今度はそれに飲まれることはない。テオはフラフラとした足取りで、元の檻の中にある「あの熱い箱」へそれを押し込み、蓋を閉じた。


「……はぁ、……はぁ……。……終わったんだ。……ね、バルカスさん」


静まり返った鍛冶場。

そこには、冷たくなったドワーフの老人の遺体と、たった一人の少年がいるだけ。


テオが「悪魔の降臨」を阻止し、世界を滅亡(あるいは家畜化)から救ったことを知る者は、この世に誰もいない。

王都へ向かう仲間たちも、空の上の熾天使も、今のテオの戦いを見てはいなかった。


テオは、誰に届くこともない小さな溜め息をつき、バルカスの遺した汚い地図を捨て、再び地上へと続く暗い階段を上り始めた。

連続する絶望の中、もしあなたがテオなら、何を考えながら地上へと向かいますか?

さらなる解決策を探す孤独な旅への決心。或いは、孤独を受け入れ、偽りの仲間たちの元へ向かう道。


続きをお楽しみに!

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