希望という名の罠
「あ……あ……ああああッ!!」
何もない石の部屋で、テオは床を叩いて泣き叫んだ。バルカスの死、裏切られた期待、そして再び訪れた孤独。その激しすぎる絶望と、自分をハメた運命への憎悪が、手の中の黒い結晶に吸い込まれていく。
その時、結晶がテオの血を吸うように脈動し、どす黒い光を放った。
光は床に広がり、精緻で禍々しい魔法陣を描き出す。そこから、ゆっくりと、影が這い出してきた。
「――ヒヒッ。いい『味』だったぜ、坊主。最高に新鮮で、最高にドロドロした絶望だ」
「……バルカス、さん……?」
テオが顔を上げると、そこには死んだはずのバルカスが立っていた。だが、その雰囲気は先ほどまでとは一変している。仮面の奥から漏れ出るのは、もはや人間のものではない、底知れない闇。
「バルカス? ああ、あの哀れなドワーフのことか。あいつは熱心な俺の信者でね。神の慈愛に耐えるために、自分の魂を俺に捧げて防壁にしたんだよ。……そう、すべては、この『純粋な感情』を持つお前を、ここまで誘い出すための芝居さ」
「芝居……? じゃあ、あのクイズも、あの死も……」
「あれは……あぁ♪ 良い前菜だった。最高だったよ。まともな奴は少ないからな。俺は自分じゃこの箱を開けられなかったんでね。地獄の悪魔が地上に降臨するには、お前のような『まともな人間』が、自らの意志で絶望し、怒り、扉を開く必要があったんだ。……鹿が逃げた? この世界じゃあ、馬鹿な慈愛で寄ってくるだろ?」
バルカス(の皮を被った悪魔)は、テオの頬を撫でた。その手は、エトワールの慈愛よりも冷たく、そしておぞましい。
「熾天使は馬鹿だよな。感情を消して世界を静止させるなんて。……感情ってのはな、食い物なんだよ。お前のように悩み、苦しみ、絶望する人間という名の『鶏』を飼い慣らし、産みたての感情を啜るのが一番の贅沢なんだ」
テオは腰を抜かし、後ずさった。
エトワールは「善意」で世界を壊したが、目の前の存在は「食欲」のために自分を、そして世界を弄ぼうとしている。
「安心しろ、テオ。お前は殺さない。お前は最高の『産卵鶏』だ。……さあ、あのお高く止まった熾天使の魂を食いに行こうじゃないか。この俺(煉獄執行総監)が、天上の毛玉を片付けてやる。……愉快な共闘だと思わないか?」
テオは、目の前の「悪魔」の姿に、言葉を失った。
希望だと思っていたものは、さらに底なしの地獄の入り口に過ぎなかった




