表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載完結】ただ互いに憎み合っていただけなのに、周囲が勝手に溺愛だと勘違いし、愛の権化のように崇拝されました。  作者: 逆立ちハムスター


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

140/145

空虚の聖域

バルカスが倒れてから、どれほどの時間が経っただろうか。

巨大な炉の火が時折はぜる音だけが、死んだように静まり返った空間に響いている。テオは、物言わぬ肉塊となったバルカスの傍らで、うずくまったまま動けずにいた。


「……バルカスさん。……起きてよ、冗談だって言ってよ」


震える声で呼びかけても、返ってくるのは冷たい沈黙だけだ。

やっと見つけた。この狂った、美しすぎる楽園の中で、自分と同じように「不機嫌」で「汚い」心を持った人間を。たった数時間の交流だったが、あのクイズの時間は、テオにとって人生で最も「人間らしく」いられた瞬間だった。

それなのに、その人は目の前で嬉しそうに毒を食らい、自分一人をこの灰色の孤独に置き去りにして逝ってしまった。


テオは、バルカスの亡骸を見つめ、胃の底からせり上がるような絶望感に襲われた。

この広い世界で、自分を「坊主」と呼んでくれる者はもういない。自分を罵ってくれる者も、嘲笑ってくれる者もいない。ただ、外には意志を失った「幸せな人形」たちが溢れ、ここには「死体」があるだけだ。


「……う、ああ……あああッ!!」


テオは顔を覆い、喉が枯れるまで慟哭した。その涙は、神の慈愛では決して拭えない、人間としての純粋な悲痛だった。


ふと見ると、バルカスの遺体から流れたはずの「黒い血」が、床の上で異様な変化を遂げていた。

それは液体の性質を失い、凝固し、どす黒い光を放つ「結晶の宝石」へと姿を変えていたのだ。バルカスの執念と悪意が物質化したかのような、不気味で重厚な輝き。


テオは震える手でその結晶を拾い上げた。熱い。バルカスの命の残滓が、テオの掌を焼く。


「……これを持って、行かなきゃいけないんだね」


テオはバルカスの遺した地図を広げた。

そこには、迷宮のような洞窟の最深部に、一際大きく『最重要』と記された印があった。ここへ結晶を運べば、世界を正す装置がある。そう信じるしかなかった。


バルカスの亡骸に、震える手でアルフォンスのナイフを供え、テオは歩き出した。

独りぼっち。足音だけが反響する迷宮を、結晶の光だけを頼りに進む。何度も道に迷い、壁を叩き、自分の無力さに呪いの言葉を吐きながら。


数時間の彷徨の末、テオはついにその『最重要』とされる場所に辿り着いた。

古の重厚な石の扉を、渾身の力で押し開ける。


「……嘘、だろ?」


テオの目の前に広がっていたのは、想像していた「神殺しの巨大兵器」でも「超技術の演算機」でもなかった。


そこは、ただの、だだっ広いだけの石の部屋だった。

机一つない。配線一つない。ただ、荒削りの岩壁に囲まれた、空っぽの空間。

バルカスが命を賭してテオを導いた場所には、文字通り「何もなかった」のだ。


「……何もない……? バルカスさん、冗談だろ……? ここに、何があるって言うんだよ!!」


テオの叫びが、何もない部屋に虚しく反響する。

手の中には、バルカスの命と引き換えにした黒い結晶。

足元には、終わりなき孤独。

テオは、ついに膝から崩れ落ちた。神はどこまでもテオを見捨て、希望という名の「最後の毒」を彼に与えたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ