真実の鐘
聖地巡礼の最終目的地。そこには「真実の鐘」と呼ばれる、巨大な銀の鐘が吊るされた広場があった。
「夫婦が愛を誓い、その言葉に偽りがあれば、鐘は不吉な音でひび割れる」という、私達にとっては処刑台も同然の場所。
広場には、私たちの「真実」を暴こうとする野次馬や、純粋に感動を求める信者たちが、黒山の人だかりを作っていた。
私は、教会の祭壇の前でアルフォンスと向かい合う。
神官が厳かに告げる。「さあ、公爵。妻への愛を言葉に。鐘があなたの魂を裁くでしょう」
アルフォンスは、私の手を取り、まるで聖母を仰ぐような慈愛に満ちた目で私を見つめてくる。
「エルゼ。……私は、君を愛している。君を失うくらいなら、私はこの場で命を絶っても構わない」(お前への執着は本物だ。お前をこの手で仕留めるまでは、死んでも死にきれないからな)
……。
静寂。
そして、鐘は――「カァァァァァァァン!!」と、耳を劈くほど高く、澄んだ音で鳴り響く。
「おお……! 偽りなし! なんという純真な愛だ!」
民衆の歓声。私は目を見開く。この男、あんな真っ赤な嘘(殺意)を、本物の「愛」として鐘に認識させたというの!?
次は私の番。私はアルフォンスの指を一節ずつ握りつぶす勢いで握りしめ、微笑む。
「アルフォンス様。……私も、あなたを深く愛しておりますわ。たとえ世界が滅びても、私はあなたの傍を離れません」(あなたが地獄の果てまで逃げようとも、私が追い詰めて『必ず』息の根を止めて差し上げますわ)
……。
鐘は――「キィィィィィィィィィィィィン!!!」と、先ほどよりもさらに鋭く、激しい音で共鳴する。
「奇跡だ! 鐘が喜びに震えている! これほど純度の高い、一点の曇りもない愛の誓いは聞いたことがない!」
神官は涙を流し、広場の人々はひざまずいて祈り始めた。
しかし、私は気づいてしまった。
この鐘は「嘘」を見抜くのではない。言葉に乗せられた「尋常ならざる執着心」の熱量に反応しているだけだということに。
「……流石だな、エルゼ。……鐘をも黙らせる、君のその『深すぎる愛』……背筋が凍るよ」
「……あなたこそ。あんな恥ずかしいセリフを、真実として響かせるなんて。」
私たちは、世界で最も「愛し合っている」と証明された夫婦として、喝采の中を退場していく。




