ロシアンルーレット
バルカスは短く吐き捨てると、椅子を蹴るようにして立ち上がった。彼が向かったのは、厳重な檻に閉じ込められ、幾重もの鎖で封印された荘厳な箱だった。
「坊主。その箱を開けてみろ」
テオが恐る恐る手を伸ばすと、指先に焼けるような熱が伝わる。
「熱い……っ! バルカスさん、これ……」
「さっさと開けろ! モタモタしてるとお前の指が先に炭になるぞ!」
急かされ、テオは歯を食いしばって蓋を跳ね上げた。
中に入っていたのは、宝石でも聖遺物でもなかった。それは、真っ黒な泥の塊が脈動し、無数の細い触手が蠢く、「悪意そのもの」を凝縮したような悍ましい物体だった。
「……なにこれ。生きてる……の?」
「熾天使の慈愛が究極の『善』なら、こいつは数千年にわたり俺たちが煮詰めてきた究極の『不純物』だ。連中の真っ白な世界を汚し、塗り替えるための唯一のインクさ」
バルカスは、その黒い塊を愛おしそうに見つめて言った。
「これを、どうするんですか?」
「……食べる」
「……え?」
「食べて、お前の血肉に馴染ませる。……そして、死ぬ」
テオの顔から血の気が引く。
「いいかテオ、俺は無駄な質問はしなかった。お前が『心臓を捧げるか』と聞いたのは、これのことだ。……どうだ、食べるか?」
「嫌だ……絶対に嫌だ!!」
テオが必死に拒絶すると、バルカスは鼻で笑った。
「根性のない野郎だ。だが、俺一人じゃダメなんだ。どちらかが死んでも、もう片方が熾天使の心臓にその『汚れた血』を届けなきゃならん」
バルカスは不敵に笑い、テーブルにアルフォンスのナイフを突き立てた。
「安心しろテオ。強制はしねえ。だが俺も死ぬのはごめんだが、世界を救わなきゃならんのも事実だ。……そこでだ。ここはフェアに『デスゲーム』で決めようじゃないか」
「ゲーム……?」
「ああ。お互いに思い出を語る。だが、話すのは半分までだ。残りの半分を相手が言い当てる。先に正解した方が勝ちだ。嘘はナシだぞ? ……負けた方が、その『汚物』を食う。……やるか、坊主?」
【第一回戦:バルカスの出題】
「……まずは俺からだ。……数千年前、ドワーフの都が神の光に焼かれた時。俺の師匠が、燃え盛る工房の中で最後に俺に手渡したものは何だ? ……ヒントは、お前がさっき座った『椅子』に関係がある」
テオは冷や汗を流しながら、必死にバルカスのこれまでの言動を振り返る。
椅子。銅色のテーブル。偏屈な性格。
「……ええと、椅子……。バルカスさんはさっき、椅子に足を組んで置いていましたよね。……もしかして、渡されたのは『椅子』そのものじゃなくて……」
【第二回戦:テオの出題】
「……僕の番です。……僕が王都でルナに初めて会った時、彼女は僕の体調を管理するために、ある『数値』を見て絶句しました。……それは何の数値で、彼女は何と言ったでしょう?」




