質疑応答ゲーム
バルカスは葉巻を深く吸い込み、天井に向けて紫煙を吐き出した。
「いいか、坊主。簡単なゲームをやろう。ルールを教える。互いに一つずつ質問し、答える。それを繰り返す。一度に一つだけだ。同じ質問はなし。答えに疑問を持つな。俺もお前の答えに無駄な突っ込みは入れない。どちらかの質問が尽きたら終了だ。……よく考えて言えよ。分かったか?」
テオは唾を飲み込み、熱気にさらされた喉を鳴らして頷いた。
「……分かりました。……僕から、いいですか?」
「ああ。始めろ」
1:テオの問い
「あなたは……なぜ、あの熾天使の慈愛に染まっていないんですか?」
1:バルカスの答え
「俺たちドワーフは、かつて馬鹿みたいに神に挑もう思ったわけじゃねぇ。連中の弱点や、いわゆる、攻撃を事前に調べあげてたんだ。長い、長い長い長い年月だった。はんっ。で、アルカナ魔法、いわゆる万能魔法だな。エルフじゃねーから詳しくは知らん。だがそれの一種の防御魔法を建造物すべてに練り込んでいたんだ。皮肉だぜ、ここが所謂、宝物庫のような存在でな。連中のヤワな魔法は届かなかった。だから数千年前の感情を吸い取る魔法も、今回の慈愛魔法? も効かなかったんだ。この防具もな」
2:バルカスの問い
「外の世界は、もはや脳みそまで花畑にされた平和ボケの連中しかいない。なのに……なぜお前だけが、そんなに不機嫌で、救いようのない『正気』を保っていられる?」
2:テオの答え
「……僕は、あの熾天使の欠片をずっと拾って育てていました。長年、彼から漏れ出る小さな慈愛を浴び続け、耐性ができていたんです。……僕にとって、神様の愛は、ずっと『日常の毒』でした」
バルカスが驚いて目を見開き、そして鋭く目を細めた。
3:テオの問い
「あなたは……数千年もこの閉ざされた空間で、どうやって生き延びてきたんですか?」
3:バルカスの答え
「アルカナには時を止める魔法もある。詳しくは説明する必要はないだろう」
4:バルカスの問い
「お前の仲間のあの女……。ルナと言ったか。あの子が持っていた演算機、あれは元々俺たちドワーフが開発した『世界管理プログラム』のなれの果てだ。……お前、あの子に管理されて不自由だったはずなのに、なぜ今、そいつを助けたいなんて間抜けな顔をしてる?」
4:テオの答え
「……彼女に管理されている時だけが、僕が『普通の人』として唯一、自分を保っていられる時間だったからです。あの狂気の中では、自由じゃないことが、僕の救いでした」
5:テオの問い
「……ここには、あなた以外にドワーフはいるんですか?」
5:バルカスの答え
「いない。少し語弊があるがな。俺が知る限りだ。とにかく、俺が最後の一人だ。お前と同じな。あとの連中は、数千年前に運悪くアルカナに侵されちまったよ。馬鹿な連中だった……本当に……本当にな……」
天井を見つめるバルカス。
6:バルカスの問い
「坊主。……お前、俺を頼ってここに来たが、もし俺がお前の仲間の目を覚ます方法を教える代わりに、『お前の心臓をよこせ』と言ったら……どうする?」
6:テオの答え
「…………仲間や世界を救った後なら、構いません。ただ、救う前は嫌です」
鼻息を出し、口角を上げるバルカス。
テオに残る人間くささを、葉巻のように味わっているかのようだった。
「……最後だ。言ってみろ」
テオは膝を握りしめ、バルカスの仮面を見つめて、震える声で尋ねた。
7:テオの問い(最後)
「……この狂った、完璧すぎる世界を……元の、あんなに最低で……でも賑やかだった世界を取り戻す手段は、あるんですか?」
バルカスは葉巻をテーブルで豪快に消し、葉巻をそっとテーブルに置いた。そして、ニヤリと――仮面の奥で髭が歪むのが分かった。
「……あるに決まってんだろ。連中はただの肥えた王と同じだ。その玉座が地上か空かの差だけ。ゲームは終わったぞ坊主。来い!」




