表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載完結】ただ互いに憎み合っていただけなのに、周囲が勝手に溺愛だと勘違いし、愛の権化のように崇拝されました。  作者: 逆立ちハムスター


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

131/145

孤独な誓い

「……公爵夫妻一行、私たちの船を使ってください。王都へ、あなた方の愛する場所へ、喜んでお送りしましょう」


かつての敵、『白き忘却の聖域エデン・オブリビオン』の信者が、まるでお節介な親戚のように慈愛に満ちた笑顔で申し出た。帰りの足を失っていた一行は、手を叩いてその「親切」を喜び合う。


だが、テオだけは、白く輝く船を見つめたまま動かなかった。


「……僕は、帰らない。みんなだけで行ってくれ」


「えっ……? どうして、テオ? 一緒に帰りましょう、あんなに帰りたがっていたじゃない」

ルナが心配そうにテオの服の袖を引く。その瞳には、テオを束縛するような執着はなく、ただ純粋な「心配」だけが宿っていた。


「帰れないんだ。……このまま帰れば、僕は……僕は一生、この『幸せな死』の中に閉じ込められてしまう」


テオは冷たく、ルナの手を振り払った。信者たちも、エルゼも、アルフォンスも、誰もが困惑した顔をする。しかし、その困惑さえもどこか柔らかく、毒がない。


「いいから、行ってくれ。僕はここで、やらなきゃいけないことがあるんだ」


冷たくあしらい続けるテオに対し、信者は嫌な顔ひとつせず、寝泊まりする場所や食料の保管庫を丁寧に、優しく教えてくれた。そして船のタラップに上がる直前、仲間たちが一人ずつテオの元へ歩み寄る。


「……テオ。これを持っていきなさい。私の大切にしていた扇子よ。貴方の行く道が、美しくありますように」

エルゼが、かつての毒舌を忘れ、聖母のような手つきで扇子を差し出した。


「……テオ。……私の予備のナイフだ。……必要ないとは思うが、……お守り代わりに」

アルフォンスが、殺意の消えた穏やかな手つきで銀のナイフを預ける。


シアンは無言で、自分の竪琴の予備の弦をテオの指に巻き、モルガンは大切にしていたメダルを手渡した。


テオは、彼らがくれた「宝物」を抱きしめる。かつての彼らなら、こんなに簡単に大切なものを人に譲ったりはしなかったはずだ。内心の嬉しさと、目の前にいる彼らが「偽物」であるという悲しみが混ざり合い、テオの胸を締め付ける。


最後に、ルナがテオの前に立ち、大切にしていた診断機を手渡した。

「テオ……。分からないけれど、貴方が必要なら持っていて。……待っているわ、いつまでも」


「ルナ。……必ず、世界を正して、君を迎えに行く。……だから、待っていて」


「……世界を、正す……?」

ルナは不思議そうに小首を傾げたが、最後には優しく微笑み、船へと乗り込んでいった。


海を滑り出す白い船。テオは、その影が見えなくなるまで、たった一人で雪解けの岸壁に立ち続けていた。

だが、その瞳に、もう迷いも涙もなかった。


「……見ててよ、エトワール(神様)。君が創ったこの『綺麗な地獄』を……僕が、全部変えてやる」


仲間たちの「形見」を抱きしめ、テオは反転した。

エトワールの残した慈愛という名の感情が死んだ世界で、テオはたった一人の「不純物」として、世界を書き換えるための最初の一歩を踏み出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ