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愛は死んで義務(結婚)だけが残ってしまいました。  作者: 今日も平和に毒を盛る


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聖泉の溺愛

巡礼の目玉である「カナンの聖泉」に到着した時、私たちの周囲には、奇跡をひと目見ようと大勢の信者や貴族たちが詰めかけていた。

この泉に夫婦で肩まで浸かり、祈りを捧げれば、その絆はダイヤモンドよりも硬くなるという。


濃霧ね。


私は、純白の薄い巡礼服に身を包み、冷たい泉へと足を踏み入れた。

隣を歩くアルフォンスも、神聖な微笑を浮かべながら、私の手首を「逃がさない」と言わんばかりの力で握りしめている。


「さあ、エルゼ。……永遠の愛を、ここで証明しようじゃないか」(このままお前の頭を水の中に押し込んで、事故に見せかけてやってもいい)


泉の中央、人々の視線が届かない深さまで来ると、私たちは同時に仕掛けた。

アルフォンスが私の足を引っかけてバランスを崩させようとすれば、私は彼の肩を強く押し、その反動で彼を水中へ沈めようと試みる。


(死ね、アルフォンス。この深い水底で、あなたが藻に絡まって二度と浮いてこなければいい)


「……っ、エルゼ……! 君は……なんて力が強いんだ……!」


「あら……アルフォンス様こそ……私の喉を……絞めるつもりですの……?」


私たちは水面下で、壮絶な足の引っ張り合いと、腕の組み合いを繰り広げた。

客観的に見れば、それは水中で激しくもつれ合う二人のシルエット。

浮き沈みし、飛沫を上げるその様子に、岸辺からは悲鳴のような歓声が上がった。


「見なさい! 水の中で、あんなに激しく求め合って!」

「まるで二羽の白鳥が、命を懸けて愛を誓い合っているようだわ!」


肺の空気が限界に達した頃、アルフォンスが私の腰を抱き上げ、強引に水面へと突き出した。

それは私が激しく悶えながらも、彼の金髪を思いっ切り掴み、毛根から千切れんばかりに引っぱっていたからだ。

結果として、私たちは「濡れ鼠の状態で、お互いの顔を至近距離で見つめ合い、肩で息をする」という、最高に情熱的なポーズで静止した。


タイミング悪く霧が晴れる。


その瞬間、泉を管理する老神官が、震える手で十字を切った。


「……おお! 泉の水が、二人の情熱で温かくなっている……! これぞ奇跡! 二人の愛が、冷たい聖水を『恋の湯』へと変えたのだ!」


(単にお互いの体温と、必死に抗った筋肉の熱によるものですわ)


さらに不運なことに、同行していた宮廷画家がその様子をスケッチしていた。

「素晴らしい! この、水滴を散らしながら見つめ合う憎悪(情熱)に満ちた瞳! これを教会の最高傑作、『永遠の抱擁』として壁画に残しましょう!」


こうして、私たちが「相手を溺死させようとしていた瞬間」は、聖地の歴史に永遠に刻まれることになった。


「……エルゼ。……次に泉に入る時は、重りを君の足に縛り付けておくよ」


「ええ、アルフォンス様。……その時は、私もあなたと鎖で繋がって、一緒に奈落まで付き合って差し上げますわ」


私たちは、全身から湯気を上げながら、鳴り止まない拍手の中を退場した。

殺意を重ねるたびに、私たちの伝説は不本意にも神格化されていくのだった。

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