美しき死の庭
昇降機がゆっくりと地上へ向かって上昇していく。
かつて降りる時に聞いた、あの悍ましい熾天使の「うめき声」はもう聞こえない。代わりに聞こえてくるのは、あまりに甘美で、吐き気のするような愛の囁きだった。
「アルフォンス、見て……世界がこんなに輝いているわ。私、もう貴方を殺したいなんて思わない。ただ、永遠にこうして見つめ合っていたいの」
「……ああ、エルゼ。……私もだ。……効率や計算など、……この幸福の前では無意味なノイズに過ぎない……」
溺愛の言葉を交わす二人を背に、モルガンはうっとりと虚空を見つめ、「ああ、私は救われた。世界は許された……」と悦悦とした表情で懺悔の言葉を呪文のように繰り返している。シアンは、もはや詩を詠むことさえ忘れ、激しいロックの旋律で「神の至福」を称え続けていた。
そして、テオの腕の中には、うっとりと目を細めて抱きついたままのルナ。
「テオ、あなたの心臓の音……とっても綺麗。ずっとこうしていましょう?」
やがて、昇降機が地上へ辿り着く。扉が開いた先に広がっていたのは、「悪夢のような絶景」だった。
かつて、白骨化した死体が転がり、ドロドロの毒液が溢れていたあの絶望のクレーターは、跡形もなく消え去っていた。
白骨化していた人々は、その形を核として、色鮮やかで巨大な「極楽鳥花」や「大輪の薔薇」へと変貌を遂げ、腐敗していた動物たちの肉体は、瑞々しい蔦や苔となって大地を覆っている。
風が吹くたびに、死臭の代わりに甘ったるい花の香りが鼻を突き、かつての「死の沈黙」は、光り輝く植物たちのざわめきへと書き換えられていた。
「「「「素晴らしい……!!」」」」
一行が歓喜の声を上げ、美しく再生(上書き)された世界に足を踏み出す。
だが、テオだけは、その光景を直視できず、頬を伝う涙が止まらなかった。
「テオ? どうして泣いているの? こんなに幸せな世界なのに……。ほら、涙を拭いて。私がずっと、側にいてあげるから」
ルナが、かつてないほど優しく、慈愛に満ちた手つきでテオの涙を指先で拭う。
その柔らかな感触、その温かい言葉。
かつてのテオなら、何よりも望んだはずのその「優しさ」が、今の彼には耐え難いほどの、心を引き裂くような激痛だった。
「……あ、ああ……っ」
テオの視線の先では、かつて人間だった「美しい花々」が、感情を持たないまま風に揺れている。
毒を吐き、罵り合い、醜くも生きていた「自分たちの知っている仲間」は、もうどこにもいない。
テオだけが無表情のまま、光り輝く楽園の中で、誰にも届かない孤独な嗚咽を漏らしていた。




