超越との対話
「…………え?」
死の衝撃を待っていたテオが目を開けると、そこは黄金の光に満たされた、音のない世界だった。
頭上には、巨大な瓦礫が空中で静止している。アルカナ魔法による時間凍結――いや、熾天使の慈悲が、一行を物理法則から切り離したのだ。
その静寂の中で唯一動いているのは、テオの足にしがみつき、「テオ、テオ、ああっ……テオのふくらはぎの筋肉、愛おしいわぁ……!」と、激しく頬をこすりつけ続けているルナだけだった。
テオは複雑な心境でルナを優しく剥がし、ふらふらと立ち上がる。
ふと見ると、側にいたはずの小型エトワールが、ゆっくりと巨大な熾天使の元へと歩み寄っていた。
「エトワール! ダメだ、戻ってきて!」
テオが叫ぶ。しかし、小さな毛玉は一度だけテオを振り返り、優しく「キュ……」と鳴くと、巨大な熾天使の鼻先に触れ、そのまま溶け込むように吸収されていった。
「エトワールッ!!」
絶望に打ちひしがれるテオ。しかしその時、彼の脳内に直接、慈雨のような穏やかな女性の声が響いた。
『――ありがとう、テオ。あなたが私の記憶と声を、ずっと、ずっと守っていてくれたのですね。』
「その声……熾天使様……?」
『安心してください、テオ。あなたは長い間、私の欠片の側にいてくれました。日々、私から漏れ出る僅かな慈愛に晒され続けたことで、あなたの魂には「免疫」ができていたのです。だから、あなただけがこの溢れ出る力の中でも、あなた自身のままでいられるのです』
巨大な熾天使が、黄金の光の中で静かにテオを見つめている。
背後では相変わらず、エルゼとアルフォンスが「愛してるわ!」「愛してるぞ!」と、時が止まった空間で情熱的なポーズのまま愛し合い、固まっている。
『本当に、ありがとう……テオ。あなたの「普通」という名の優しさが、私の凍てついた絶望を溶かしてくれました』
黄金の空間は、テオのトラウマを洗い流すように優しく、けれどどこまでも静かだった。




