真・狂気の愛
「……あ、ああ……まただ……また、僕だけが置いていかれる……」
テオの脳裏に、あの王都での出来事の数々が走馬灯のように蘇り、絶望として駆け巡っていく。自分以外の全員が正気を失い、異様な狂気に染まっていく、あの吐き気のするような孤独。
今、目の前で繰り広げられているのは「狂気」ではなく「暴走した慈愛」だが、テオにとっては同じだった。理解できない狂気に周囲が塗り替えられていく恐怖。
だが、そんなシリアスなテオの絶望を、ルナが全力でぶち壊す。
「テオ……テオォ! ああ、あなたのその震える肩、抱きしめたい、すり潰したい! 私を計算機だと思って好きにしていいのよぉ!」
ルナはゴロゴロと喉を鳴らすような声を出しながら、エトワールさながらにテオの体に頭を激しくこすりつけていた。
「管理」という言葉をどこへ投げ捨てたのか、彼女の瞳はハートマークすら浮かびそうなほど潤みきり、テオの服は彼女の摩擦でボロボロになっていく。これほどまでに緊迫した死の淵で、これほどまでに不必要な摩擦がかつてあっただろうか。
「……ああっ、エルゼ! お前のその扇子で私の首を叩き折ってくれ! それが私への最高の口づけだ!」
「アルフォンス、愛してるわ! 貴方のナイフで私のドレスを細切れにして、二人の愛のパズルを完成させましょう!」
背後からは、もはや言語を絶した「綺麗な愛(狂気)」の罵声……いや、愛の囁きが地底湖の波紋のように響き渡る。モルガンは地面に這いつくばりながら「私はゴミだ! 聖遺物の錆だ!」と、誰に聞かせるでもない懺悔を絶叫し続けていた。
シアンはといえば、瓦礫の雨をロックなステップで回避しながら、喉を枯らしてシャウトしている。
「『絶望はトラウマの味、愛は鉄錆の香り! 堕ちる瓦礫は祝福の雨、ベイビー、地獄でランデブーといこうぜ!!』」
もはや、誰が敵で、何が危機なのかさえ分からない。
狂気に侵された愛の嵐の中で、テオだけが唯一の正気という名の「生き地獄」を味わっていた。
その時だった。
「ギギギ……ッ!!」
巨大エトワールのじゃれつきが、ついに地下都市の天井を支えていた最後の梁を粉砕した。
テオの真上から、家一軒ほどもある巨大な瓦礫の塊が、重力に従って容赦なく降り注ぐ。
「テオ! 大好きよぉぉ!」
自分にのしかかってくるルナ。
すぐ隣で抱き合いながら、迫りくる瓦礫さえ「愛の重みね」と微笑み合うエルゼとアルフォンス。
テオは、迫りくる死の影を仰ぎ見ながら、ただ一言、心の中で叫んだ。
(……誰でもいいから、普通に戻ってくれ……っ!!)
ゴォォォォォォンッ!!!
衝撃音が地下空間を震わせる。
果たして、この「愛の圧死」から逃れる術はあるのか!?




