天使の『ありがとう』は、僕たちの命より重いみたいだね
ドロドロの闇が晴れ、浄化された地底に光が満ちる。
そこには、スッキリとした顔で前足を揃えて座る、超巨大なエトワール(熾天使)がいた。
「……キュ……ゥ?」
その鳴き声が響いた瞬間、一行の胸の奥に、かつてないほど柔らかで陽だまりのような温かさが広がった。
「な、何これ……。私の心の中に、勝手にお花畑を作らないでくれる? 気持ち悪い……けど、なんだか……怒る気が失せるじゃない」
エルゼが、毒を吐こうとして毒を忘れたような、ひどく困惑した表情で扇子を閉じる。
「……セロトニンとオキシトシンが限界値を突破。……私の脳内演算回路が、……お花畑に侵食されていく……。あ、暖かい……」
ルナは、幸せそうにトロンとした目でよろけ、テオに寄りかかる。
「心がふわふわして気持ち良い。エトワールの毛みたい」
「……フン。……暗殺者に、……不必要な安堵を与えるな。……ナイフを握る手が、……鈍るだろうが……」
アルフォンスも、口では毒づきながらも、その瞳からは鋭い殺気が消え、どこか安らかな表情を浮かべていた。
「ふん、私の心に平穏が満ちていく……」
しかし、その「和気あいあい」とした時間は長くは続かなかった。
巨大エトワールは、自分を救ってくれた「小さな温かい塊」たちに対し、最大級の感謝と親愛を表現することに決めたらしい。
巨大な瞳を輝かせ、満面の笑み(猫特有の、ちょっと怖い笑顔)を浮かべると、ドシン! ドシン!と、地響きを立てて一行に向かって走り始めたのだ!
「ちょっと待って……感謝してるのは分かったけど、その勢いで来られると私たちは物理的に『消滅』するわよ! 逃げなさいッ!!」
エルゼの悲鳴と共に、一行はバラバラになったエレベーターの籠や支柱の陰へ全力疾走した。
ガシャーーーーンッ!!
「キュイィッ♪」という嬉しそうな鳴き声と共に、巨大な前足がエレベーターの太い鋼鉄の支柱を、まるでおもちゃの飴細工のようにへし折った。
「最初よりヤバいことになってるじゃない!! あの毛玉、私たちを『猫じゃらし』だと思ってるわよ!!」
エルゼが、折れ曲がった鉄骨の下を潜り抜けながら叫ぶ。
「……心拍数が、……感動ではなく……純粋な生存本能でバックバクだ……ッ!」
アルフォンスが、かつてない機敏さで巨大な爪を回避し、壁を駆け上がる。
「……テオ! あれ、じゃれ合いのつもりよ! でも当たったら……、確実に管理対象外の肉塊になるわ!」
ルナが悲鳴を上げながら逃げ惑う中、背後では巨大な尻尾が薙ぎ払われ、地下都市の遺跡が次々と粉砕されていく。
冷静にスライディングで滑り込み、落ち着いているモルガン。
だが、シアンだけは、崩れゆく瓦礫の上で優雅に楽しそうにステップを踏んでいた。
「『救った神様、遊び盛り。愛の抱擁、骨が折れる。……ねえ、テオ! 神様の『ありがとう』は、僕たちの命より重いみたいだね!』」




