醜き愛の賛歌
ギギギ……と今にもワイヤーが弾け飛びそうな、死の瀬戸際の昇降機。
その狭い籠の中では、神話的な奇跡など微塵も感じさせない、極めて醜い足の引っ張り合いが繰り広げられていた。
「もういいわ、どうせここで墜落してミンチになるなら、今のうちに貴方の心臓を氷漬けにして、永遠に私のコレクションにしてあげるわ! 覚悟しなさい、アルフォンス!」
「……フン。……お前に殺される前に、……このエレベーターごと奈落へ計算通りに道連れにしてやる。……それが私の最後の愛だ」
「何よその歪んだ愛! 気持ち悪いわね、死ねッ!!」
エルゼとアルフォンスが互いの首を絞めんばかりに掴み合い、モルガンは「私の全知全能の計画が、なぜこんな痴話喧嘩で終わるんだ……」と頭を抱えて炭を撒き散らしている。ルナもまた「もう知らない! 全員まとめて管理不能の不燃ゴミよ!」と診断機を投げ捨てていた。
テオは……エトワールのモフモフ背に顔埋め独り言を呟いていた「もう終わりだ……何もかも……。もう疲れたよエトワール」
だが、この世の終わりかのような罵詈雑言が響き渡る中、シアンだけが一人、全肯定の笑みを浮かべて背後の「闇」を見つめていた。
巨大な神の毛玉(熾天使)の、長い尻尾の先っちょ。
そこが、エルゼたちの怒号に合わせて、ポワポワと柔らかな黄金色に明滅し始めたのだ。すると、クレーターの底に溜まっていたドロドロの黒い液体が、まるで浄化されるように虹色のシャボン玉へと姿を変え、ふわりふわりと空へ消えていく。
「『響けよ罵声、重なれ殺意。清き祈りは届かぬ場所へ。醜き絆の熱こそが、凍てつく天使を溶かす歌。……ああ、最高だね。天使さん、君も本当は、こんな『うるさい愛』が欲しかったんだろ?』」
シアンが優雅に、そして確信を持って竪琴を弾く。
しかし、責任のなすりつけ合いに没頭している一行の耳には、その詩も、世界の浄化も、全く届いていない。
「……ちょっとシアン、さっきから何ブツブツ言ってんのよ! 貴方も加勢しなさいよ、この暗殺教祖をどう料理するか議論してるんだから!」
「おやおや、エルゼ。いいんだよ、そのまま続けて。君たちのその『最低で最高の喧嘩』こそが、今、この世界を救っているんだから」
この聖地に辿り着いたのは、皆、心折れ、感情を使い果たした死人のような者たちばかりだった。モルガンのように裏切られ、疲れ果てた者たちが求める「凪」は、熾天使にとってさらなる孤独でしかなかった。
だが、今、目の前にいるのは、死を目前にしてもなお「殺意」という名の熱狂をぶつけ合う、救いようのない狂気をまとまった熱い塊。
小型エトワールが惹かれたのは、高潔な魂などではない。
「どんな絶望の中でも、決して熱量を失わないこの狂気」こそが、熾天使が何千年も待ち望んでいた「心」だったのだ。




