熾天使の正体
「……ありえないわ。数千年前のドワーフの演算回路が、いまだに現役で稼働しているなんて……! このエレベーター、物理法則を無視した効率で下降しているわよ!」
ルナが驚愕し、診断機を真っ赤に点滅させる。
しかし、下降するにつれ、地下からの「うめき声」はもはや物理的な衝撃波となっていた。
「……オォォ……ン……ッ!!」
鼓膜がキーンと鳴り、脳を直接揺さぶられるような波動。エトワールがテオの腕の中で激しく光を放つと、地下の主もそれに呼応するように暴れ始め、エレベーターのワイヤーが悲鳴を上げる。
「ちょ、ちょっと! 何よこの揺れ! 死ぬならアルフォンスを道連れにして、豪華な心中をキメるって決めてるんだから、こんな機械の故障で死ぬなんて認めないわよッ!」
エルゼが半狂乱で叫び、アルフォンスの襟首を掴んで前後に揺らす。
「……落ち着け……エルゼ。……お前の揺さぶりの方が、……死の危険が高い……」
アルフォンスも冷静を装っているが、その指先はわずかに震え、ナイフを何度も握り直していた。
そして、モルガンだ。
冷静沈着、狡猾な元教祖であるはずの彼が、かつて見た「恐怖」を思い出したのか、目に見えてガタガタと震えながらただ空気を鋭く見つめていた。
ガコンッ!!
その時、激しい衝撃と共にエレベーターが停止した。辺りは一寸先も見えない完全な闇。
その暗闇の奥で、(* *)「カッ……!」と二つの巨大な、血のように赤い瞳が点灯した。
「……来、来た……。神に裏切られし、ドワーフを滅ぼし、冷酷無慈悲な処刑人に堕ちた……恐怖の死の天使が……っ!」
モルガンが絶望に声を震わせる。
テオとルナが震える手でエトワールを掲げた。
「エトワール、光って……!」
黄金の光がブワッと闇を払い、そこに浮かび上がったのは――。
「ニャ……オォォォォォォン!!(超重低音)」
そこにいたのは、威厳に満ちた天使でも、恐ろしい悪魔でもなかった。
テオとルナの腕の中にいるエトワールをそのまま100倍にして、もっふもふにした巨大な猫型生物だった。
「「「あーーーーーー」」」
一行の顎が外れ、地面にめり込んだ。
あまりの可愛さと、それに見合わない絶望的なサイズ感。熾天使とは、超巨大な「神の飼い猫」だったのである。
「『天の使いは羽を持たず、柔らかな毛並みと鋭い爪。哀しみの咆哮は甘え声、神の庭から転げ落ちた……。……おやおや、テオ。君が拾ったのは、天使様の唯一の『良心』じゃなくて、……ただの『迷子の仔猫』だったのかい?』」
シアンだけが、このカオスな状況に大爆笑しながら、軽快なステップで竪琴をかき鳴らした。




