地獄への切符
一行は、足を滑らせれば最後、黒い泥の深淵へと真っ逆さまな絶壁の縁を、慎重に進んでいた。
「まったく、どうやって降りるのよ、このクソみたいなクレーターを! 私がここを丸ごと凍らせて、滑り台にでもしてあげましょうか!?」
エルゼが、ドロドロの液体を睨みつけながら猛毒を吐く。
「……計算によれば、……その手法での生存率は0.03%だ。……黙って歩け、エルゼ」
「なんですって、この薄情夫! 貴方の首を先に滑らせてあげようかしら!」
二人の罵り合いをBGMに、モルガンが絶壁の途中に口を開けた、巨大な洞窟の入り口を指差した。
「……あそこだ。あの中に、ドワーフがこの地の最下層へ向かうために遺した**昇降機**がある」
洞窟に足を踏み入れると、そこには驚くべき光景が広がっていた。
岩肌を削り、精緻な歯車と鋼鉄の梁で補強された広大な空間。かつてここが、ドワーフたちの技術の粋を集めた首都であったことを、崩れた石柱や看板の残骸が物語っている。
「……信じられない。この瓦礫の堆積パターン、建築様式……。間違いないわ、ここがドワーフの黄金時代を支えた中心都市だったのね」
ルナが瓦礫に診断機をかざし、その膨大なデータの蓄積に息を呑む。
シアンは、もはや無機質な岩石となった街の残骸にそっと触れ、物悲しく竪琴を爪弾いた。
「『金槌の音は止み、歯車は錆びゆきて。王の夢は泥に沈み、神の雷がすべてを灼いた。……あまりに理不尽で、あまりに身勝手な、天上の気まぐれに捧げるレクイエム』。……ねえ、テオ。神様っていうのは、自分より上手くおもちゃを作った子供が、そんなに憎かったのかな」
洞窟の奥へと進むにつれ、周囲の静寂を破るように、地下深くから**「……オォ……オォ……」**という、地響きのような気味の悪い「うめき声」が響き渡り始めた。
「……何、この音。……風の音じゃない。……何かが、苦しんでいるみたいな……」
テオが耳を塞ぎ、エトワールを強く抱きしめる。
「……熾天使の、嘆きだ」
モルガンが重厚な鋼鉄の扉の前に立ち、レバーを引いた。
キィィィィ……と耳障りな金属音が響き、ドワーフの遺した超技術、巨大な昇降機が暗闇の中から姿を現す。
「……この下に、……すべてを止めてしまった『悲劇の根源』がいる。……さあ、乗りなさい。……神の使いを、……お前たちの異常な熱で、……正気に戻すために」
昇降機が揺れ、一行を乗せて、うめき声の主が待つ最下層へと下降を開始した。




