助け舟
「……陛下、……ソフィア様。その相談、私たちが『現場視察』を兼ねて預かるわ!」
エルゼは強引にエドワードとソフィアの間に割って入り、アトラクションの設計思想(という名の惚気)を熱弁し始めた。背後ではアルフォンスが、無表情のまま「鉄の強度が足りないのは愛が足りないからだ」などと、もっともらしい支離滅裂な助言で王たちの注意を逸らしている。
その隙に、テオ、ルナ、シアンの三人は、フードを深く被ったモルガンを連れて、搭乗口へと滑り込んだ。
だが、そこへ一人の男が立ちふさがる。カイルだ。
彼はいつもの爽やかな笑顔で、モルガンの肩を叩いた。
「おやおや、そちらの御仁。随分と熱心にドロップを見学されているようだが……お顔を拝見しても?」
「……ッ!」
カイルがひょいとフードの中を覗き込む。そこには、数日前まで厳重に幽閉・監視していたはずの男――モルガンの顔があった。
カイルの笑顔が消える。その瞳に鋭い剣気が宿り、手が剣の柄へと伸びた。
「……モルガン侯爵。貴殿、なぜここに――」
「カイルさん、待って!」
テオが必死にカイルの腕を掴んだ。
「信じて! 彼は……彼はこの街を救うために必要なんだ。僕たちの日常を取り戻すために!」
「……騎士団長様。……彼をここで拘束すれば、……王都の感情値は永遠にゼロのままよ。……私の演算は、彼の『同行』を唯一の解だと言っているわ」
ルナが診断機をカイルに見せ、シアンが静かに重厚な弦の音を響かせる。
「『古き剣士は絆を問い、若き鼓動が明日を乞う。沈黙の刃、鞘に収まり、道は極北へと拓かれん』。……カイル、君ならわかるはずだ。この男が、ただの『脱獄囚』じゃないことくらい」
カイルは、三人の真剣な瞳をじっと見つめ、そしてフードごしに不敵に笑うモルガンを見た。
数秒の沈黙の後、カイルは深く、深く吐息をついた。
「……ふん。私は今、重度の眼精疲労で何も見えん。……そこにいるのは、ただの『熱心な工事関係者』だな?」
カイルはわざとらしく背を向け「テオ。必ず、全員で無事に帰ってくるんだぞ」と囁き、立ち去る。
何かおかしいと感じたのか、注目している周囲の兵士たちを呼び寄せた。
「高潔な兵士達! 陛下たちが相談中だ、こちらを向け! 彼等の視察の邪魔をするな!」
カイルの強引とも言える計らいにより、兵士たちの注意は完全に逸らされた。
カイルの漢気に守られ、一行はついに『愛の急降下』の最上部、搭乗デッキへと辿り着いた。




