雑な脱獄
モルガンを連れ出すには、無機質になった見張りの兵士や使用人の目を盗まねばならない。だが、テオたちが隠密行動を提案するより早く、エルゼが動いた。
「まどろっこしいわね! ――アルフォンス、愛してるわ! 死ねぇぇぇぇぇ!!!!」
エルゼが叫ぶと同時に、リビングのシャンデリアを巨大な氷柱が貫いた。
「……私もだ。……お前のその厚化粧ごと、……粉砕してやる!!」
アルフォンスのナイフが、エルゼの耳元をかすめて壁に突き刺さる。
するとどうだろう。廊下にいた、虚無の瞳をしていた見張りの兵士たちが、その「凄まじい殺気」を浴びた瞬間、瞳にドロリとした光を取り戻したではないか!
「……はっ!? この……この美しいまでの殺意! ――公爵夫人! 旦那様! お久しぶりです、その暴力! ああ、血が滾る……! もっと、もっとやってください!!」
「そうだ! これこそが我々の望んだ地獄だ! お二人とも、頑張って殺し合ってください!!」
兵士たちが感極まって泣き叫び、二人の「殺し合い(夫婦喧嘩)」に釘付けになる。その隙に、テオ、ルナ、シアンは、モルガンにマントを被せて裏口から鮮やかに脱出させた。
王都の郊外まで逃げ延びたところで、モルガンが深々とマントを脱ぎ、外の空気を優雅に吸い込んだ。
「……ふむ。やはりシャバの空気はいい。……あの女の淹れた紅茶の香りには及ばんがな」
「……このおじさん、本当に反省してるのかな……」
テオが呆れたように呟く。ルナは無言で、モルガンの首筋に仕掛けた小型発信機(兼・爆弾)のスイッチを弄んでいた。
「おやおや、テオ。見てごらん」
シアンが竪琴をジャランと鳴らす。
「『檻を出た猛禽、翼を広げ。古の傷跡をなぞりて北へ。凪に沈まぬ熱を抱き、狂った家族は星を追う』。……さあ、開幕だよ。世界で一番、不純で純粋な救世主たちの旅がね」
そこへ、遅れてエルゼとアルフォンスが、息を切らすこともなく、返り血(自分の)を拭いながら合流した。
「……待たせたわね。……さあ、モルガン。案内しなさい。……私たちの日常を汚したあの『天使』だか何だか知らない置物を、叩き壊しに行くわよ!」
一行は、極北の地「レテ」を目指し、一歩を踏み出した。




