モルガンの断罪
離宮の重厚な扉が閉まり、外の「凪」が遮断される。
エルゼ、アルフォンス、そしてテオたち三人を前に、モルガン侯爵はゆっくりと立ち上がった。
「……何を黙っている、エルゼ。私を暗殺者と呼び、軽蔑していた時のあの威勢はどうした。あのような『白い空虚』に当てられて、自慢の氷まで溶けたか?」
「……黙りなさい、モルガン。貴方に何がわかるというの。あの男たちは、私たちのすべてを『病』だと……」
エルゼが言いかけた言葉を、モルガンの怒号が遮った。
「当たり前だ!!」
部屋の空気が震える。テオは思わず肩を跳ねさせた。
「お前たちの愛は病だ! 異常だ! 吐き気がするほどおぞましい狂気だ! ……だが、それがどうした!?」
モルガンは、かつて自分が二人を襲った時のことを思い出すかのように、鋭い眼光をアルフォンスに向けた。
「アルフォンス。私はかつて、愛という言葉を呪い、すべてを破壊しようとした。だが、あの日お前たちが交わしたあの凄まじい刃の応酬……互いを細切れにせんとするあの絶望的な熱量を見た時、私はどうしようもなく『生きたい』と思ってしまったのだ!」
モルガンは自分の胸を強く叩く。
「あいつらは『正論』という名の真綿で、人間の魂を絞め殺そうとしている。愛を病だと呼び、治療の名の下に、人が人であるための『毒』を抜き取ろうとしているのだ。……いいか、エルゼ。情熱(毒)のない人間に、何が創れる? 何が守れる?」
モルガンは、呆然とするテオとルナに視線を移した。
「テオドール、ルナ。……お前たちが求めていた『普通』とは、あのような色のない世界か? 隣にいる者の心拍も、体温も、憎しみも感じない、ただの置物になることか?」
「……それは……」
テオは言葉に詰まった。モルガンの言葉は、今の自分たちが感じていた「違和感」の正体を、力ずくで引きずり出していた。
「あいつらは愛を壊しに来たのではない。人間の『熱量』そのものを奪いに来たのだ。……アルフォンス、エルゼ。お前たちはこの国における、もっとも美しく汚らわしい『熱の象徴』だ。あいつらにとって、お前たちは真っ先に排除すべき『不純物』に過ぎん」
モルガンはニヤリと、不敵な笑みを浮かべた。
「治療されてたまるか。……病の何が悪い。……狂っていることの何が不都合だ。……この世で最も激しい病を患っているお前たちが、あの冷え切った凪を焼き尽くさなくて、誰がやるのだ!」
その言葉が落ちた瞬間。
エルゼの周囲に、これまでとは質の違う、刺すような「冷徹な殺意」が再び満ち始めた。
アルフォンスの瞳にも、計算を越えた「執着の炎」が再点火される。
「……フン。相変わらず、暑苦しい男ね」
エルゼが髪をかき上げ、不敵な笑みを取り戻す。
「病……いいわ。ならば、治癒不能なこの病を、あの連中に感染させてあげる。……凪の海を、私の氷で徹底的に凍らせて、粉々に砕いてやるわ」
かつての敵から手渡されたのは、自分たちが「狂っている」ことへの、究極の肯定だった。




