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愛は死んで義務(結婚)だけが残ってしまいました。  作者: 今日も平和に毒を盛る


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10/19

死の舞踏

年に一度の「夫婦ダンス大会」で、今年は優勝者には「国王からの望みの品」が与えられることになったみたい。


「優勝者には、国王陛下が望みの品を一事、叶えてくださる」


その布告を聞いた瞬間、私とアルフォンスの間には、かつてないほどの火花が散った。私は「離婚許可証」を、彼は「合法的な別居権」を。目的は同じ――「目の前の忌々しい配偶者から、公的にオサラバすること」


遅れて会場に着くと、王宮の大広間は観客たちの熱気で溢れかえっていた。


「さあ、エントリーナンバー最後は! 大陸の至宝、『聖なる公爵夫妻』の入場です!」


拍手の中、私たちは手を取り合って入場。

アルフォンスが私の腰を引き寄せ、耳元で氷のような囁きを投げかけてくる。


「エルゼ。君の華奢な足首を折るには、今の三拍子が最適だとは思わないかい?」


私は彼の肩に手をかけ、扇の骨を彼の喉元に食い込ませながら、女神のような微笑みを浮かべる。


「あら、アルフォンス様。あなたのその無駄に長い脚が、私のドレスに絡まって無様に転倒する様を楽しみにしておりますわ。……さあ、踊りましょう?」


音楽が始まった瞬間、私たちは同時に「仕掛け」る。


ワルツの旋律に合わせ、アルフォンスが私を力任せに振り回す。普通の令嬢なら遠心力で壁まで吹き飛ぶ勢い、だが私は彼の腕を逆手にとり、関節を極めながら体勢を立て直す。


(死ね、アルフォンス。その首が180度回転して、一生背後霊のように後ろを向いて暮らせばいいのよ!)


私たちは、高速回転する独楽こまのように踊り狂う。

私がヒールで彼の足の甲を全力で踏み抜こうとすれば、彼はそれを予見していたかのように私を宙に放り投げる。


「おおお! 見ろ! 公爵夫人が空を舞った!」

「あんなに高いリフト、命を預け合っていなければ不可能ですぞ!」


観衆は狂喜乱舞しているが、実際は「掴んでいた手を離して、私をシャンデリアに叩きつけようとした」だけ。私は空中でドレスを翻し、重力に逆らうような身のこなしでアルフォンスの肩に着地。


「……っ、この、身の軽い毒婦め……!」

「ふふ、あなたの肩は、踏み台にするにはちょうどいい高さですわね」


私は着地の勢いを利用して、彼の耳元を扇で一閃。

彼はそれをバックステップで回避しつつ、私の腰を抱き止め、強引に「ディップ(反り返るポーズ)」の体勢に持ち込んでくる。


私たちの顔は、数センチの距離まで近づく。

視線が交差し、お互いの瞳の中に「どす黒い殺意」が渦巻いているのが見えた。


「……愛しているよ、エルゼ。……地獄の底で、一人でね」

「私もですわ、アルフォンス様。……あなたの墓標には、最高の賛辞を刻んで差し上げますわ」


その瞬間、曲がフィニッシュを迎えた。

私たちは、お互いを絞め殺そうと首に手をかけたまま、完璧な静止ポーズを決める。


……一瞬の沈黙。

そして、雷鳴のような歓声。


「なんという……なんという魂の共鳴だ!」

「もはやダンスではない! あれは二人の命が、火花を散らして溶け合う儀式だ!」


国王陛下は感動のあまり立ち上がり、震える声で宣言する。


「素晴らしい! 予は決めたぞ! 優勝は文句なしに公爵夫妻だ! さあ、望みを言うが良い。どのような『愛の願い』でも叶えて遣わそう!」


私は勝ち誇った顔で、アルフォンスと共に陛下の前へ進み出る。

(これで、やっとこの男と縁が切れる……!)


しかし、陛下の次の言葉が、私たちの希望を粉々に粉砕してしまった。


「あまりの絆の深さに、予は心打たれた。ゆえに予の特権をもって、お二人に『永劫不離えいごうふりの金婚式予約状』を授与する! 加えて、お二人の愛の軌跡を後世に残すため、向こう30年、すべての公式晩餐会でこの『愛の舞踏』を披露することを義務付ける!!」


((…………はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??))


離婚どころか、30年間の「定期的な格闘ダンス(強制)」が確定した瞬間。


「……おめでとう、エルゼ。……30年、君と踊り続けられるなんて、死ぬほど光栄だよ」


アルフォンスが、引きつった笑顔で私の手を取り、唇を寄せてくる。

私は、彼の指をへし折る勢いで握り返す。


「ええ、アルフォンス様。……死ぬほど、いえ、死んでも足りないくらい幸せですわ」


私たちの「義務」は、ついにダンスの重力を超え、もはや永遠の呪いへと昇華されたのでした。

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