愛は死んで義務(結婚)だけが残ってしまいました。
「おはよう、私の愛しいエルゼ。今日も君の瞳は、まるで朝露に濡れたサファイアのように美しいね」
豪華なシャンデリアが輝く食堂。アルフォンスが、吐き気のするような甘い声で私を迎えた。
私は心の中で、彼を暖炉の薪と一緒に燃やすシミュレーションを終え、最高の微笑みを浮かべる。
「あら、アルフォンス様。あなたこそ、その金髪はまるで……そうね、昨日いただいた最高級の豚の脂身のように艶やかですわ」
「……褒め言葉として受け取っておこう。さあ、冷めないうちに食べよう。君の好きなエッグベネディクトだ。シェフに厳しく言っておいたんだよ、『愛する妻の喉を焼かないよう、適温で出せ』とね」
私は優雅にナイフを握る。
三年前、私たちは確かに愛し合っていた。はずだ。
彼は私のためにドラゴンを(実際はトカゲの親戚だったが)狩り、私は彼のために刺繍を(実際は侍女にやらせたが)贈った。
けれど、結婚という名の「義務」にサインした瞬間、魔法は解けた。
残ったのは、この広すぎる屋敷と、週に一度の義務的なダンスパーティー、そして「仲良し夫婦」を演じなければならないという、死ぬほど退屈な台本だけ。
「そういえば、エルゼ。来月の建国記念祭、君のドレスは私の瞳と同じ色を新調してはどうかな? 『夫婦の絆』をアピールする絶好の機会だ」
「あら、素敵。あなたの瞳の色……つまり、泥水のような濁ったグレーですわね? 流行の最先端をいきそうですわ」
アルフォンスの眉がピクリと跳ねた。いいぞ、もっとやれ。
私たちは、お互いのことが嫌いで嫌いでたまらない。
けれど、離婚はできない。公爵家と王家の契約、莫大な慰謝料、そして何より――先に「愛が冷めた」と認めた方が、この社交界という名の戦場で敗者になるからだ。
「……ふっ、相変わらず冗談が上手いな。愛しているよ、エルゼ」
「私もですわ、アルフォンス様。死が二人を分かつまで、いえ、死んでも逃がさないくらいには」
私たちは、笑顔で視線の火花を散らす。
愛は死んだ。
けれど、この「義務」という名の殺し合い(ダンス)は、まだ始まったばかり。




