第9話
「これは、暗殺者にやられたようですわ」
ターニャの傷を分析していたセーニャが苦しそうにそう呟いた。
暗殺者はハンターの仕事が主で、金さえあれば同族だろうと関係なくその刃を向ける。血の通っていない人間と恐れられる存在で、各コロニーの代表達はそれぞれ専属の暗殺者を手元におき、互いを監視しているとかなんとか。
しかしこの未開惑星において俺達が彼らと敵対する理由は何もない。やはり噂通りに攻撃対象は無差別なのか、多額の金を積まれて何者かに洗脳されているのか、そもそも攻撃した相手が人間だと気づいていないのか?
「ターニャは無防備にやられるような子ではありませんわ。この傷はわざと受けたみたいですわね」
「まさか、魔物の中に人間が……?」
人間相手であれば聖職者であるターニャは攻撃出来ない。それを狙ったのか。
「その可能性はゼロではありませんわ。ディオギス様のような目的であれば」
ああ、そうか。
ここは未開惑星。つまり、見たことのない魔物やありえない能力を持った魔物がいる。
暗殺者やハンターは狩りをして金が欲しい。
俺みたいに魔力を持たない人間が魔物から力を得たいというのはレアだろうが、魔物の中には魔力だけではなく、世界を変える力を持つものもいるという噂を耳にした。
己がコロニーの重鎮より上に立ちたい場合、珍しい魔物を狩りたいだろうし、そうなると、俺達のように淡々と未開惑星を切り開く為の魔物狩りをするハンターは目的が一致しない限り目障りになる。
「とりあえずターニャは自分で回復出来ますので、わたくし達は中を調べましょう」
「あ、ああ」
こんな場所に傷ついた彼女を放置して大丈夫か不安になったが、どうやらセーニャが敵から気配を消す魔法と、シールドを張ったらしい。
本当に魔法使いの魔法は便利だ。
「俺にも魔力があれば……」
「あら、ディオギス様はそのままでよろしいのですわ」
魔力があれば彼女達の足を引っ張ることが減ると思うのだが、セーニャは俺が魔力を持ったら一緒に冒険が出来なくなると拗ねる。
無力な勇者様で本当にいいのかと不安に駆られるが、ここまで来たらもう後には引けない。
魔力のない俺にはもう帰る場所がない。マイデン家からわざわざ出てまで俺を引き取ってくれたウォルトの為にも、今は剣士として生きるしかないのだから。
それにいつまでもティルに頼るわけにいかないし、この魔物討伐をキッカケに俺が成長出来れば、何かが変わるかも知れない。




