第6話
「ディオギス、仕事だ」
朝早くからまたギルマスに布団を引き剥がされた。自分で起きるからいつも起こしに来なくていいって言ってるのに。
ふああ、とひとつ欠伸をした瞬間、俺の腰回りにある柔らかい感触に思わず素っ頓狂な声が出た。
「うおおお!?」
捲られた布団の中ですぴすぴ気持ちよさそうに眠っている女が二人。一体いつから俺は知らない女と寝るようになったんだ?!
「もう……ウォルト様、お楽しみの邪魔はしないようお伝えしたではありませんか」
「お、お楽しみって……」
うおい待て待て。昨夜の記憶がない。
ディオギスと今後についての話をして、その後いつものように酒場で軽く飲んでから一人で部屋に戻った。ここまでは間違いない。
一体この女達はいつ、どうやって鍵のかかった俺の部屋に乱入してくるんだ!?
「すまんな。まさかターニャまで合流しているとは思わなかった」
「た、ターニャって、誰?」
「わたくしの双子の妹ですわ」
セーニャの言葉も意味がわからないから困る。彼女は俺に二人とも命を救われたと頬を赤らめて話すが、俺は5歳の頃からずっとウォルトとコロニーを旅してきた。
今のモンスターハント軍団に入っても、単独行動を取ったことは一度もないし、彼女らを救うキッカケになった魔物がいるならば、ウォルトの方が覚えているはずだ。
もしかして、彼女達は俺ではなくティルファングから出てきたあいつに命を救われたのではないか?
であれば俺に記憶が無いのも納得だし、彼女達が俺と背格好が同じティルを勇者と妄信するのも頷ける。
ただ、あれは意思を持つ剣なので、いつも呼びつけてティルがタイミング良く出てくるわけでは無い。
俺を助けてくれる頼もしい仲間なのだが、イリアが言うように何か対価を支払っているのだろう。そうでなければあの強さを俺の為に振るってくれるのはおかしい。
せっかく昨日ウォルトと話す機会があったのに、ティルが結局何者なのか聞きそびれてしまった。
「おはようございますぅ、ディオギス様ぁ」
「お、おはよう……ございます」
ターニャと呼ばれた女性は目をごしごししながら俺にふわりと優しい笑みを向けてきた。姉のセーニャとは異なり、真っ白のローブを身に纏っていたので、その服装から聖職者であると思われる。
「ああん、ずるいわディオギス様。どうしてターニャには挨拶してわたくしにはしてくれないのですか!?」
「いや、あんたのその格好が……」
目のやり場に困るんだって!!
「俺、昨日鍵かけて寝たはずなのに、なんであんたら俺のベッドに入ってんだよ」
「それでしたらご安心を。わたくしは鍵開けの魔法がありますので」
にっこりと微笑むセーニャの手には部屋の鍵と同じ形の物体が浮いていた。
ちっともご安心じゃない。まさかの鍵が無力……彼女達の妄想が膨らむ前に、俺が勇者様ではないことを早く伝えた方がいいのかも知れない。




