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第5話


 ティルが漆黒の騎士になって、ドラゴンをぶった斬って──


「あ、あれ……?」

「ああっ! ディオギス様ぁ〜!」


 鉛のように重い瞳を開くと、俺の鼻の上にセーニャの豊満な胸がぽすんと乗せられた。窒息する、頼むから退けてくれ……!


「せ、セーニャ、苦しい」

「はっ。わたくしとしたことが……申し訳ありません」


 すぐさま俺の真横に移動したセーニャは何故か俺に頭を下げてきた。


「またディオギス様に命を救われましたわ。今度はわたくしがご恩を返す時でしたのに……」


 いや、俺は何もしていない。むしろあの魔物を倒したのはティルファングから出てきた謎の人物・ティルだ。


「セーニャ……あの魔物はどうなった?」

「魔物を討伐した証として剥ぎ取った頭蓋骨と皮を昨日ウォルト様に渡してきたではありませんか」

「……」


 やはり記憶がない。ただ、今回ティルという俺と同じ背格好の人間が剣から出てきたのは覚えている。

 俺が何もしていないのに、セーニャの中で勇者様ディオギスとしての株が上がるのは非常にまずい。早いうちに謎を解決しなければ。

 ベッドから身体を起こすとセーニャが大丈夫かと寄ってきた。


「ちょっと、ウォルトと話してくる」

「わたくしも……」

「悪い、俺一人で行かせてくれ」


 ウォルトとは5歳の時からの付き合いだ。今更あいつが俺に隠し事なんてないと思うが、ティルやイリアの件は全て不明。そして俺の欠けていく記憶は何なのか。


「ウォルト、話がある」


 ギルマスであるウォルトの元には別のハンター達も仕事を求めて訪れる。あいつは俺の面倒を見ているだけではなく、他のハンターにも魔物討伐の依頼をしていた。

 そりゃそうだ、ここは未開発惑星。隅から隅まで魔物だらけで、今俺達がいる結界の張られたキャンプから出ると、そこは敵の縄張りだ。


「どうした、思い詰めた顔しやがって。例の魔物の死骸は金にしておいたぞ?」

「それが、あれを倒したのは俺じゃないんだ……」

「じゃあセーニャがやったのか?」

「それも違う。ティルがやったらしい」


 ティルの名前に反応したウォルトは眉を顰め、2階に上がるようくいっと顎で示した。

 一応あの魔物は俺が討伐したことになっているので、今更それを覆すのはウォルトの信用問題にも関わってしまう。


「まあ、大体察しはついていたけどな」

 

 ウォルトの部屋で俺は鳥の魔物が死骸を喰ってドラゴンになったことや、ティルが漆黒の騎士に変わったことを報告した。


「死骸を喰う魔物か……そりゃあ厄介だな」

「あと、今回は俺の記憶が消えていない。ティルが漆黒の騎士になってそのドラゴンを倒したんだ」

「ああ、その件は確認している。セーニャが残した画像が送られているからな」


 そう言えば、魔物が死骸を喰った時にセーニャがチップで取り込みしてるって言ってたな。

 あのイヤリングには敵の画像や攻撃、スキル、その時の会話内容や何が効いたのか事細かに保存されるらしい。ただ、そのイヤリングにデータを保存するにはそれなりの魔力を使うらしい。セーニャだからこそ出来ることだ。


「まあ残念な話だが、あの鳥族の魔物はランク1。つまり初歩だ」

「はああ!? あんな、死骸を喰うやつなのに!?」

「そうだ。今後上級ランクの魔物を見つけた時は共喰いを防ぐのが最優先だ。セーニャと協力してみつけた死骸は全て焼き払え」


 ウォルトから受け取った金はまあまあの収穫だった。とはいえあれがランク1。

 セーニャですら一撃で吹き飛ばす魔物を俺で何とか出来るのだろうか。

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