第48話 動く城
城から出ると黒狼達と戦っていたリオが肩で息を整えつつグラン達のいる方角を指で示した。
「ごめんなさい……僕、もう矢を練る魔力が……」
「無理させて悪かった。ただ、この辺りも危ないから一度拠点に戻った方がいいんじゃないか?」
「そうですわね、門を開きますわ」
リオを拠点に飛ばす程度であれば、彼があちらに辿り着いたのを確認して門をまた封印してしまえば拠点に魔物が流れ込む心配はない。
俺はセーニャが術を発動している間周囲を警戒した。
腑に落ちないのは、アルヴァンが動かないことだ。
エリオーネを暴走させる為に声だけ張ってた割に、何も攻撃を仕掛けてこない。
あの変態が何を考えているのか理解に苦しむ。
……まあ、どのみち今回はセーニャを救うのが目的だったし、後は疲れているだろう暗殺者チームを回収するだけだ。
門を閉じたセーニャは何か胸騒ぎを覚えたのかもう一度城の方を振り返った。
「ディオギス様……城が!」
「んなっ……」
城に、手足が生えている。
動く城なんて聞いていない。いや、そもそも魔力で作られているものだから、根本的な建物の建築という概念がなくて、ある意味術者の意志次第で何とでも出来るのだろう。
この城を動かすには相当の魔力が必要だったらしい。
セーニャとアンナの魔力を吸い上げ、そして離れの塔から侵入したエリオーネとターニャの魔力を根こそぎ吸い上げた動力はメーターを振り切った。
「う、そだろ……」
城と戦う?
いくら魔力で造られているとは言え、あんなもんに踏み潰されたら即死だ。
それに壁は魔力防壁。つまり、こちらの魔法を遮断する。
選択肢は物理攻撃になるだろうが、先ほどエリオーネを召喚したので、じゃあティルを出せるかと言われると難しい。
「グラン達と合流しないと……」
リオは必死に俺達を呼びに来てくれた。多分、暗殺者は身を隠せるからどこかで治療しているはずだ。
「合流する間も与えてくださらないみたいですわよ」
城は離れの塔二つを合体させて腕に変換した。足は一階から二階へ登る螺旋階段を強化してロボットのように変形する。
「デカブツと思ってやるしかねぇか」
「あの障壁にわたくしの魔法は効きませんわ……」
「セーニャ、何とかグラン達の気配探って回復してきてくれないか?」
「グラン、様?」
セーニャは捕まっていたので勿論グランのことは知らない。ターニャの記憶を辿っているのか、すぐにピンときたようだ。
やはりターニャは姉の中で生きている。姿は見えなくなったが、死んだ訳ではないことにほっとした。
「で、ですがそれではディオギス様が……」
「もしもあいつらが自分で回復するのが厳しい状況だったら俺達は全滅だ。そうなったら、このでけえ城があるってウォルトにいち早く報告しないと」
リオを拠点に送ったので、多分彼がウォルトに粗方報告はしてくれていると思うが、セーニャを守りたい。
俺の意図を察してくれたのか、セーニャはため息をつくと俺にひとつ保護魔法をかけてくれた。
「ディオギス様、すぐに戻りますわ。ですから──」
「ああ、無理はしない。時間稼ぎして、暗殺者チームを回収したら此処から撤退だ!」




