第46話 VS 黒狼
「これで粗方終わりか?」
「ふぃ〜。流石に疲れたねぇ。ざっと400ってところ?」
リオも数日かけて練り込んだ矢を使い果たしてしまいぜえぜえと肩で呼吸を整えていた。
そんな彼を労うためにグランは少年の頭をくしゃりと撫でる。
「よくやったな、お前」
「えへへ……憧れの暗殺者に褒められるの、すごく嬉しいです」
「ちょっと! あたしにはないのお〜!?」
「……」
女は面倒くさい。
グランは心の中でそう呟きリオを撫でたと同じように相棒の頭を撫でた。これだけでアンナは機嫌を良くするのである意味楽だ。
『グルウウウウ……』
倒したはずの黒獣の魔物がゆっくりと起き上がった。
「おかしい、致命傷を与えたはずよ」
「……まさか、共喰いか」
グランが炎の手裏剣を投げる前に、黒獣は隣に転がる魔物の肉を引き裂いた。
ブチブチ、と血を啜り、魔力を自分のものへと変換していく。
僅か数秒の間で活気を取り戻した黒獣は他の魔物も次々と食し始めた。
魔力を一気に吸収した黒獣は天へ咆哮し、雷鳴を落とし始めた。
「くっ──」
ビシッ、ビシッ、ビシッ。
何百万ボルトの雷かわからないが、あんなもの食らったら即死だ。
黒狼は仲間を呼びつけ、さらに身体に雷を纏い始めた。
「あれを止めないとやばいわね」
「リオ。麻痺矢を作れるか?」
既に矢は尽きていたが、憧れの暗殺者からの依頼だ。やるしかない。
「すぐは魔力が足りないので難しいのですが……」
「これでどうにかなるか?」
グランが差し出したのは、擬似魔力を回復する魔法の水だった。ごく一部のコロニーで売られているらしいが、かなりの値段がついており一般人は手に入れることができない。
「こ、こんな高価なものを……!」
「あいつを放置したら、多分拠点は潰される」
グランはいつになく真剣な眼差しで黒狼を睨みつけた。バリバリと体表に雷を纏っている。
『グオオオン!!』
魔力を蓄えたことで魔物はさらに速度を上げた。グランの小太刀で受け止めきれない刃は彼の胸元を深く抉る。
暗殺者は軽装備なので鋭い攻撃を喰らうと命に関わる。
「てめぇ、絶対にぶち殺す!!」
グランが傷ついたことでアンナが切れた。彼女はずらっと手裏剣を取り出すと獣の能天目掛けて投げつけた。
「爆ぜろ!」
爆弾のように次々と手裏剣が四散する。
致命傷には至らずとも、まあまあの痕跡は残せたと思う。
ふふん、と勝ち誇ったような笑みを浮かべた瞬間、アンナの腹部に黒狼の爪がめり込んだ。
「ぐっ……が、はっ」
「アンナ……!」
意識が遠のく。愛おしいグランの顔が歪む。
こんなところで、まだ結婚式も挙げていないのに──。
「くたばるわけにはいかないんだよっ……!!」
愛の力は強い。
アンナは肩口に噛みついてきた黒狼の目玉に小太刀を突き刺した。
途端に暴れ出す黒狼にしがみつき、もう一本の小太刀を急所に向ける。
『ガアアアアア!!』
「間に合え……! 痺れ矢」
リオが放った矢は黒狼の胴体に直撃した。威力自体は全くないものの、それは敵を拘束する。
「今だ」
アンナとグランは息のあった連携で獣を左右から切り刻んだ。
二人は魔法を使って死骸を燃やすことが出来ないので、彼らの肉や血の痕跡が残らないように倒すしか共喰いを止める方法はないのだ。
「はぁ……はぁ……」
出血が酷い。グランもアンナも腹部をかなり抉られているので、出来れば今すぐ拠点に戻したいところだ。
肝心の聖職者はセーニャを救う為に城の中に入りまだ戻る様子を見せない。
「ど、どうしよう……」
「リオ、お前は城にいるディオギスと合流してこい」
傷口を薬草の葉で止血するグランは至極冷静にそう話した。
次に気絶しているアンナの止血処理に回っている。
「ぼ、僕……」
「おれ達暗殺者は身を隠せる」
「わ、わかりました! すぐにディオギス様と合流してきます!」
素直なリオが城に向かい駆けたのを確認したところで、グランは迫り来る強大な気配に小さく舌打ちをした。




