第44話 VS メドゥーサ
メドゥーサの攻撃はさほど速くないので修練を積んだディオギスは力を使うことなく簡単に懐に潜り込んだ。
「俺にお前の石化は効かない! 石化は効かない……!」
自分に言い聞かせるようにそう呟くと蛇の瞳は対象を探して彷徨った。
何故か分からないが、言葉と強い意思の力が身体を強くしてくれる。
本体はエリオーネとリンクしているので、危険な蛇の目に剣を突き立てた。
『ア、アアアアアア……!!!』
「くっそ、髪の毛もダメなのか……?」
八体ある蛇の一体を潰しただけでエリオーネは激しく身体を震わせて暴れ始めた。
蛇から放たれる眼光で下のフロアでセーニャと戦う魔物がとばっちりを受けるように石化していく。
どうやったらエリオーネを殺さずに救うことができるだろうか。
そもそも、彼女が魔物になったのは、擬似魔力を強制的に暴走させられたからだ。
セーニャが捕まっていた時のように、彼女の魔力をゼロに出来れば或いは──。
「──っとと」
考え事をする時間はくれないらしい。
俺は慌ててエリオーネの蛇頭を躱しつつティルファングを構え直した。
石化光線を避けてもう一度エリオーネの懐に潜り込む。彼女の魔力が何処から湧いているのか分からないが、セーニャはターニャと同化したので聖職者の魔法が使えるはず。
ならば、可哀想だけど動けない程度までやるしかない。
「ごめん、エリオーネ……」
問題の石化光線を放つ頭部分を斬り落とした瞬間、エリオーネの身体は元の人型に戻った。
しかし、傷は深い。とても回復魔法では戻せないレベルまで斬られた彼女は既に虫の息となっていた。
「エリオーネ……しっかり」
──俺が、殺してしまった。
人間相手に剣を振ったのは初めてだ。
なんでこんなことに。元々、ただの惑星探索のはずだったのに!
魔力を与える魔物に遭遇できたら俺にも魔力が手に入るじゃないか。なんて軽い気持ちでここに来たのが間違いだったのか。
大人しく俺はウォルトの横でギルドの手伝いに回るべきだったのかも知れない。
大した力もないのに、他のハンターに混じって腕試しのように飛び出して。
俺のせいでセーニャは危険な目に遭うし、せっかく会えた妹も瀕死。
「くそっ……人間同士で戦って何になるんだよ!」
力が欲しい。大切な人を守る力が……!
自然にぽたぽたと涙が溢れた。エリオーネの白い頬に、血と俺の涙が伝い落ち混じる。
その雫が彼女の唇に到達した瞬間、何故か俺の身体に強力なうねりが流れ込んできた。
これが魔力だと瞬時に悟ったのかは分からない。全身を包み込むように暖かくて、それでいて切ない彼女の『記憶』
──いや、やめて……! これ以上わたしの頭を覗かないで!
──ディオギス……お兄様。わたしに兄がいるのね?
──ああ、わたしとはまた違う絶望を生きたお兄様。あなたに会えばわたしの魔力は暴走しないのかしら。
──早くお兄様に会いたい……わたしはもう、人間で居られなくなってしまう。
魔力暴走のリスクがある子は魔力を制御されてアルヴァン達のいる研究所に連れて行かれたのだろう。エリオーネは擬似魔力に翻弄された子のひとり。
もっと早くエリオーネに会えていたら、彼女はこんな悲しい生を終えることは無かったかも知れない。
「くそ……」
彼女なりの最後の手向けなのか、俺に全部魔力を送りつけてきた。でも俺は魔力を受け取っても使い方を知らないのでどうすることも出来ない。
冷たくなったエリオーネの身体を抱きしめて呟く。
「イリア……頼む。俺の妹を、助けてくれ……」
そんなに都合よくいかないよな、なんて諦めかけていたその瞬間、俺の身体とエリオーネの身体はリンクして淡く白い光に包まれた。




