第43話 変異
離れの塔から出て本館に戻ったところで魔物に囲まれた。
当たり前か、ここは一応アルヴァンの城だ。セーニャと、戻ってきたエリオーネを逃すわけがない。
『──ふふ、君たちは本当に頭が悪くて助かるよ。わざわざ私の大切なペットを連れてきてくれたのだからね』
まただ。本人は居ないのだが、建物全体から声が聞こえてくる。
「ちくしょう、出てくるなら出てこいよ! こそこそしやがって。お前をぶっ倒してウォルトの前に突き出してやるからな」
『エリオーネ』
びくんとエリオーネの肩が揺れる。
彼女の瞳は壊れた人形のように突然ぐるぐると回り始めた。
「お、おい……エリオーネ」
「や、だ……やだ、バケモノに、なりたくな──」
『強制変化・メドゥーサ』
アルヴァンはエリオーネを研究所から連れ出してからずっと一緒に行動していた。
そりゃあ魔獣と合体する変態とコンビなんだ。彼女に何かされたと考えるのは不自然ではない。
俺、やっと自分のことをお兄様だなんて呼んでくれる可愛い妹が出来たって舞い上がっていたのに。
なんだよ、また俺から家族を奪うのか……擬似魔力ってやつは!
美しいエリオーネは真っ青な皮膚に八つの蛇の目をつけた髪の毛を振り乱す半人半蛇へと変わった。
赤く血走った瞳は悲しそうに涙を流した。
「エリオーネ!」
「ディオギス様、あの瞳を見てはいけませんわ!」
俺が彼女に近づこうとした瞬間、セーニャに強く引き戻された。
ニタリと笑った彼女の瞳が光った瞬間、俺の真横にいた魔物が一瞬で石化する。
「マジかよ……」
「メドゥーサ。あの髪の毛についた目は見たものを全て石化させる力がありますわ」
外に出ようにも魔物が邪魔で難しい。あんな化け物に背中を見せようものなら石像にされてしまうだろう。
かと言って、エリオーネはメドゥーサにされたとは言え、死んだわけではないのだから、何とかして救いたい。
「なあセーニャ。石化を解除する方法ってあるのか?」
「え? えぇ……ターニャの魔力が戻りましたから、いくつか解除魔法はありますけど」
「……オッケー。じゃあ、エリオーネは俺がなんとかする。もし俺が石化したらあとは頼んだ!」
「ディオギス様っ!!」
大切な妹を見捨てるなんて出来ない。
いや、妹って言われても彼女がそう言ってるだけで、俺が追放されてから産まれた子だから実際一度も一緒に暮らしたことはないけれど。
それでも。
マイデン家から追放されて、研究所で魔力を吸われて、変な研究されて、魔物にされて。
エリオーネは女の子らしい人生何一つ歩んでいない。
暴走するほど強大な擬似魔力なんて最初から無かったら彼女はもっと幸せに生きられたはずだ。
アルヴァンがどういう意図で擬似魔力のない世界を目指しているのか分からないが、罪のない彼女達を魔物にするのは違う。
既に人の言葉を話さない蛇女と向かい合う。
俺にはティルファングがある。意思の力でこの状況を打破するんだ。




