第39話 突然の嵐は去るのが早い
視線が痛い。
ダブル暗殺者から向けられる侮蔑を含んだその目。ただでさえお前ら顔怖いんだから睨まないで欲しい!
そもそも、イリアの言葉が足りないのが原因だ。まさか幼女が成人になるなんて誰が思うんだよ。
せめてここにウォルトがいてくれたらフォローしてもらえるのに頼みの綱はギルドにいる。
「こ、これは……不可抗力で」
ブランケットをイリアの肩にかけて俺はそのままイリアを抱きしめた。流石に全裸の彼女を見せるのはまずい。
「あれ、グラン。久しぶりだね。ウォルトと一緒じゃないの?」
「なんだ、イリアじゃねえか。久しぶりだなあ!」
あまりにもくだけた言い方に驚いたのはアンナだ。常にクールで口数の少ない相棒が突然少年のように豪快に笑ったのだ。
「ああ、おれは今後ウォルトと一緒にいる為にこのガキに協力してんだよ。そういう約束を交わしたからな」
イリアがマッパであることには一切触れず、グランは俺の首にがしっとしがみついてきた。
そしてアンナは現実を受け入れられずにフリーズしている。
まあ無理もない。この暗殺者はウォルトを愛する変態のおっさんだ。
多分、こっちのキャラが本物で、俺達といる時のクールな一面は本人が暗殺者モードでいる時のものなのだろう。
「と、とりあえずイリアに服を!」
「別にボク困ってないよ?」
俺のブランケットが気にいったのか、彼女はそれをすりすりしながら上半身だけ覆った。大事な部分がモロ見えだ。頼むから全身覆ってくれ。
「目のやり場に困るんだよ!」
「ふうん、人間って大変だなあ」
イリアはそう言うと自分で薄布のローブを魔法で取り出した。最初っからそうしてくれたらいいのに、絶対にわざとだ。
「さて、とりあえずディオギスの質問に答えようか」
「ティルを戻せないか?」
「それは無理だ。そもそも、ティルはきみの分身。使い続けることで、きみは記憶と命を削るって言わなかったかな?」
「いや、記憶の話は聞いてないぞ」
確か、ティルを召喚することで寿命が縮むような話はされた気がするけど、それの対処方法もあると言っていたような。
「なあ、イリア。ティルを召喚しなくても済む方法で俺が強くなれる道はあるのか?」
「ある。ディオギスはもう最強の力をまあまあ使ったんじゃない?」
「はい?」
俺は最強の力なんて使っていない。寧ろ、何度もピンチになって、結局ティルに頼り、セーニャは俺達を逃す為にアルヴァンに捕まった。
何のことかわからずに唸っているとイリアは眠いのかうとうとし始めた。
「ダメだ。この姿で居るのは精々三十分が限界だ。またボクを呼んでね、ディオギス」
「ちょ、何もまだ聞けて──」
ない。
俺が伸ばした手は虚しく空を掴んだ。
はらりと落ちたブランケットが、今イリアがこの惑星から消えたことを意味する。
彼女を呼び出した方法もさっぱり分からないし、結局俺の最強の力が一体何であったのかも不明のまま。
とは言え、グラン達が偵察を終えて戻ってくれたので、俺は束の間の休息を取ることにした。
あたりはしん、と静けさに満ちている。
眠れなくて俺はごろんと寝返りを打った。
助けなければいけない。それに、ウォルトもセーニャは今後の魔物討伐に絶対必要だと話していた。
そうでなくてもセーニャは俺を勇者様と呼んでくれるくらい一途な思いをぶつけてくれる。
そんな彼女を見捨てるという選択肢はありえない。
ブランケットを肩まで引き上げ、俺はセーニャの無事を祈り再び瞳を無理矢理閉じた。




