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第38話 捻じ曲がった感情


 同時刻。


 ディオギスが火の番をしている間、グランとアンナは城に近づいていた。


「グラン、もうアタシが戻って来たんだから、あいつらの言いなりになる必要なんてないんだよ?」


「何のことだ……?」


「アタシがアルヴァンに捕まったせいで、ウォルトの言いなりになっているんだろう。もう、無関係の人間を手にかけなくていいんだよ」


 そっと相棒の背中に抱きつく。

 自分がグランの唯一の相棒であると信じて疑わないアンナ。彼女の妄想から来る束縛愛は既に、グランと相棒という領域を超えている。


 例えグランがウォルトに恋をしていても全く気にしていない。寧ろ、ウォルトがグランを誑かして変な道に進ませようとしていると思い込んでいる。


「ねえグラン。また二人でやっていこうよ。あいつらなんて放っておいてさ」


「……コロニーはもう持たない。次の隕石衝突でまた何千万という民が死ぬ」


「分かっている。今はここの魔物を狩るしかないってことも。アタシらの愛の巣を作るには仕方ないね」


 その言葉に否定も肯定もしないグランの態度がアンナを調子に乗らせていた。

 何度もウォルトを愛していると告げているのだが、それは変な魔法をかけられているせいだと聞く耳を持たない。


 二人の任務は偵察だ。気配を消して城に近づくと、黒い狼のような魔物が周囲を徘徊していた。

 一匹であれば二人で難なく討伐出来るのだが、少し数が多い。

 どのみち今回はセーニャを救出するのが目的なので、戦力を分散すれば何とかなるだろう。


「よし、偵察は終わった。戻るぞ」


「あん、待ってよグラン」


 戻ろうとするグランの手首を掴む。怪訝そうな顔をする相棒に密着した。


「アタシだけなんだよ、グランの相棒は」


「おれは別に必要としていない」


「アタシが居ないとグランはダメなんだよ」


 彼の口元を覆うスカーフを無理矢理外し、キスを乞う。


「……離れろ」


 そっと身体を押し返されてアンナは驚きと怒りに身体を震わせた。

 グランに拒否された……。

 こんなことは初めてだ。

 

 いつものグランであれば素直に好意に甘んじてくるのに、幽閉されて離れた期間が彼の氷の心を変えてしまったのか。

 ウォルトめ。忌々しいギルドのマスター。

 アンナはウォルトがグランに変な魔法をかけていると信じて疑わない。この態度の変化もそのせいだと自分に言い聞かせていた。

 そしてこれはグランを誑かした別の女も術に絡んでいると踏み、パーティにいる二人の女にターゲットを絞った。


「あの女、ぶっ殺す」


「やめろ。まだ利用価値は高い」


「アタシのグランを誑かした罪は重いよ。セーニャには命を救われたから、ターニャは半殺し程度にしておいてやるけど、エリオーネはどのみち始末対象だから文句は言わせないよ」


 エリオーネはアルヴァンと共に魔物を操り、一部の魔物を吸収して能力を得ている。

 確か、ギルドで取り扱う討伐対象の一人としてその名が入っていたはず。


 嫉妬に狂ったアンナを止める手段はひとつしかない。全く気乗りしないがグランは首を振り、静かに殺意を高める相棒を抱きしめた。


「──相棒はお前だけだ」


「グラン……」


 うっとりと目を細めるアンナ。しかしその先はグランも興味がないのでするりと腕を引いた。


「……さて、そろそろディオギスを寝かせてやらんとな。肝心な時にあいつが無力だと救出作戦が台無しだ」


 ぽん、と頭を撫でられたそれだけでアンナは機嫌を良くした。女心は難しい。

 そしてアンナは知らない。

 ウォルトの前だけ、グランが純粋な少年に戻る瞬間を。

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