第34話 グラン VS アンナ
硬質化したガマは生物属性も変えたのか、手足をさらに伸ばし、尋常ではない速度でターニャに襲いかかった。
僅か2秒あるかないか。
無抵抗のターニャは激しく吹き飛ばされ、木に背中を打ちつけると軽く吐血した。
「ターニャ!」
「よそ見している場合ではないですわ」
俺が一瞬視線を動かした間にガマの鋭い爪が眼前に迫っていた。間一髪で躱し、2撃目は剣で受け止める。
あまりにも重い一撃に一瞬で両手が痺れた。
「くっそ、俺は……」
「遅い」
意思の力を高める前にガマが動く。やばい、殺られる──!
右手を翳した瞬間、俺とガマの間を赤装束の女性が突き抜けた。
風の如く速い彼女は一瞬地面を蹴り上げると懐から小石程度の球をガマの顔面に投げつけた。
「爆ぜろ」
小型の爆弾なのか、彼女の合図と共にガマの顔面で大爆発が起きる。顔を潰されたガマは手当たり次第暴れていたが、冷酷な女性は両手に小太刀を構えるとガマの身体を左右から切り裂いた。
鮮やかな動き、確実に急所を仕留めるその技。
──彼女も、暗殺者だ。
グランは幸いウォルトを生贄にしてなんとか敵ではない中立だが、この女性は何者なのだろう。
ガマを倒した女性は今度はエリオーネに鋭い小太刀を向けた。
「ちょ、ちょっと!」
「死ね」
暗殺者の間合いに入れる人間は、同等の速度を持つグランのみ。
エリオーネは彼女に断罪されると理解していたのか眉ひとつ動かさなかった。寧ろ止めに入ったグランの行動を意外そうに見つめている。
「随分な挨拶だなアンナ」
「グラン……き、さまっ……!」
ギリギリと小太刀同士のせめぎ合いの後、間合いを取り二人は再び激突した。
もはや常人ではその速度を追うことすら難しい。一瞬ギィン、と剣の交錯する音が聞こえるものの、それきりで姿はまるで見えない。
「勘違いするな、あの女はディオギスの妹だ」
「何──!?」
ほんの一瞬の隙にアンナはグランの蹴りを喰らい小太刀を落としていた。すぐさま首筋に銀色の刃が当てられる。
「卑怯な」
「それがおれ達の仕事だろう。それに、おれはウォルトにしか興味がない」
「それは知っているが……何故あんなおっさんがいいんだ」
「ウォルトの悪口を言ってみろ。次はその首を落とすぞ」
怖い。
なんて怖いんだ暗殺者。
暗殺者が怖いと言うよりも、グランの盲目的な愛がやばい。
何で見た目に反してこの人はウォルトのことが好きなんだろう。多分、敬愛的なものでは無さそうだ。
確かここの地図を作ったのがグランと相棒って言っていたから、きっとこの人がグランの相棒なのだろう。
彼女は両手をあげて抵抗しないことを意思表示すると、ディオギスの前に恭しく頭を下げた。
「私はアンナ。あの城で幽閉されていた時に、セーニャに会い、彼女に命を救われた者です」




