第31話 北へ
一時間程で回復したウォルトがギルドのカウンターに戻ってきた。猛毒は抜けたようだがその強面にはさらに深い皺が刻まれていた。これは絶対に怒っている。
そして少し離れた場所にご機嫌の変態暗殺者が立っていた。二人の間に何があったかは絶対に訊いてはいけない。
「ディオギスには迷惑をかけたな。そしてエリオーネを見つけたのか」
「見つけたって言うか、あの廃墟に向かったらあっちから来たんだよ。なんか、アルヴァンって人間と組んでた。セーニャはそいつに攫われたらしい」
「そうか……厄介な人間がここに混じっているのだな」
ウォルトは黙考した後、離れている暗殺者を呼びつけた。
「グラン」
「何だい?」
「お主の力を借りたい」
愛しのウォルトに助けて欲しいと言われたことでグランは見えない尻尾を振るようにさらに機嫌を良くした。
「ウォルトが俺のものになってくれるならいくらでも手を貸すぜ」
「──それは全てが終わってから話し合うとしよう。今はとにかくこの惑星の魔物を鎮静化させることが先決だ」
出来るだけ好意を全面に出してくるグランの言葉を遮り、ウォルトは顔を顰めたまま俺にこの惑星の地図を初めて見せてくれた。
「この地図を作ったのはグランと相方のアンナだ」
「アンナは相方じゃねえ。あっちが勝手についてくるだけだ」
「とりあえずお主は黙っておれ」
「ちっ……」
ウォルトの言うことは素直に聞く暗殺者は不貞腐れたままウォルトの背中に寄りかかって草笛を吹いていた。自由過ぎる……。
「まあ、グランの協力があってこの惑星の全貌が漸くわかったというところだ。コロニーの人間が移住するには、魔物が少ない北西側がいいと思い、今別のハンターチームを派遣している」
そういえば、ウォルトを探していたハンターが何組かいた。それを多分派遣したのだろう。
そして北東側は俺たちが2回行った廃墟と、そのさらに北には謎の城が描かれている。
「この城は?」
「うむ。ここにグランの相方が多分幽閉されておる。そしてセーニャも」
セーニャは無事なのだろうか。先ほど波動が弱まっていると話したターニャは不安に揺れていた。
「実は俺のティルファングにいるティルがアルヴァンって魔法使いに消されてしまったんだ。セーニャを助けるにはもう少し力が欲しい」
「うむ。その為にグランを連れて行け」
「「はあ?」」
思わずおっさんと声がかぶった。
グランはウォルトの命令は聞くけど、ガキの使いは御免と言った顔だ。
それに、暗殺者と行動して彼を怒らせたりしたらいきなり敵になる可能性だってあり得る。
「おれは行かねぇぞ。強くない奴の手伝いはしない」
「グラン」
「なんだよ」
「……後で俺の部屋に来い」
ウォルトが何か彼の“お願い“を聞くことで、どうやらグランは俺達にも協力してくれるらしい。
二人の間で何の契約を交わしたのかは聞かないでおこう。俺はティル不在の不安はあったものの、エリオーネとグランという新しい仲間を頼りに、北を目指すことにした。




