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第3話


 セーニャの情報通り、嘴の長い鳥のような魔物はのんびりと木を突き蜜を啜っていた。周辺には確かに小さな魔物が徘徊している。


「もう一つの気配はどうだ?」

「──なくなりましたわ。今がチャンスです」


 小粒40匹程度であればウォルトに教わった技でどうにかなるだろう。


「あの巨大な鳥はわたくしが引き付けておきますわ」

「頼む」

烈火(れっか)の核よ、空を裂き、無数の焔矢(エンシ)となりて敵テキを穿(ウガ)て!』


 セーニャの持つ杖が赤く光り、天空に振り翳した瞬間空が赤く染まった。


焔雨穿空ヴァル・エン・アークレイン!」


 鳥の頭上目掛けて炎の矢が次々と向かっていく。魔力の矢は確実にターゲットに命中するまで自由に向きが変わるので外れることはない。

 その間に小物達が一斉にセーニャ目掛けて向かってきたので俺はティルファングを大きく振りかぶった。


旋風斬華(セリ・フュル)!」


 緑色の血を飛ばした魔物は次々に風の刃で倒れていく。こんなに歯応えのない魔物なのかと一瞬拍子抜けしたが、巨大な鳥は違った。

 ギョエ、ギョエ、と不気味な咆哮をした後、喉を大きく膨らませ、毛色を漆黒に変えた。先ほどまで温厚そうに見えたつぶらな瞳はギラギラと金色に光り殺意に満ちている。


「うわ、共喰いかよ」


 しかも倒した小物の魔物を長い舌で絡め取り飲み込んだ。敵を吸収して強くなるタイプなのかも知れない。


「セーニャ、こいつの情報をウォルトに飛ばしてくれ」

「はい。チップで取り込みしておりますわ」

「流石だな……あんたがいてくれて助かった」

「あぁ……早くディオギス様がわたくしのことを思い出してくださらないかしら……」


 魔力はない、名家から追放された俺のどこが勇者様なのかさっぱりだが、実際こういう情報のない魔物を相手にする時は彼女の力は必要だ。


『ディオギス、お前を待っていた』

「……は?」


 魔物が喋った。しかも、今のは間違いなく人間の言葉だ。

 脳に直接語りかけてくるような感じで、セーニャには聞こえていないらしい。


「どうかなさいましたか? ディオギス様……」

「いや、この魔物が──」

『その女は敵だ』


 ビリビリと身体に強烈な電流が流れる。見えない何かに拘束されているようで身動きが取れなくなった。


「ディオ──」


 異変を察して俺に触れてきたセーニャは電流を喰らい、10メートルくらい吹き飛ばされた。


「セーニャ!」

『あの女は我々の目的を妨害する。さあ、ディオギス、我々と共に……』


 訳の分からない力に身体がギリギリと締められ、息ができなくて苦しい。そんなことよりも気絶したセーニャに先ほど仕留め損なった小粒の魔物がじりじりと忍び寄っている。


 助けないと。俺が、本当に勇者様なら。

 勇者ってなんだよ、無力なのか?

 違うだろ、勇者の力ってのは、どんな時でも──


「うおおおおお……!!」


 電流が強くなる。痛い、苦しい、心臓が爆発しそうなくらい早鐘を打っている。でも、直撃を喰らって気絶したセーニャの方がツライに決まっている!

 無理矢理この拘束を取るのだから身体への負担が大きいのは仕方がない。俺がやるしかないんだ!


「ティルファング……!」


 イリアが作ったその剣は、己の意志を持つ。

 俺の必死の呼応に、“彼“は応えてくれた。

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