第29話 変態|暗殺者《アサシン》
ウォルトの部屋は不思議な封印が施されていた。部屋は目の前にあるのに、存在を消されているというか、多分、他の狩人にはここが分からないようになっているらしい。
やはり常に結界を張っているから極力狙われないようになる配慮なのかは分からないが──。
「ターニャ、このドア開けられるか?」
「これは……どうやら暗殺者の術がかけられておりますわ!」
「何だって!? そんな危ない奴、どうやって──」
「……これは、鍵の魔法では開けられませんわ。物理的に行くしか」
「それなら話は早い。──悪いウォルト、後で叱られてやる!」
ターニャが鍵の魔法は意味がないと言ったので、ディオギスは愛剣を引き抜いた。
「頼むぜティルファング! いくぞ……」
心の中で再び自分は出来る、出来ると気持ちを鼓舞する。守るべきもののことを考えると自然と力が沸き起こり、何とかなる気がした。
「氷牙連撃!!」
頭の中にあるイメージが繋がったものは氷の蓮撃だった。ティルファングが青く光り、剣先から氷の刃が飛び出て術のかかったドアを真っ二つに切り裂いた。
もう一度武器を切り上げて残骸となったドアを思い切り蹴り飛ばす。
「ウォルト!」
「ああ、愛しのウォルト……あんなガキんちょに浮気したらぶち殺すからな」
てっきりウォルトが気絶していて、この男が介抱しているのかと思ったが、どうやら違うらしい。
いや、ちょっと待て。あの暗殺者はどうみてもおっさんだ。
そしてウォルトも四十過ぎたおっさんだ。
フリーズしている俺とターニャを無視して男は愛おしそうにウォルトの頬を撫でていた。
「ウォルトはこの惑星探索に必要なんだ。人質にしないでほしい」
「それが許せないんだ。ウォルトがおれ以外の男に仕事を与えることも、その笑顔を他人に向けることも!」
「えっ……と」
彼が怒る理由がとんでもない方向に向かっていて困惑しかない。あと、俺ですらウォルトの笑顔は一度も見たことが無いけど、どんな妄想だろう。
「おれはウォルトを二十年追いかけている。いつも気配を消しておれの側から居なくなって、挙句ガキんちょを連れて歩くようになった。万が一、女の影があればそいつを殺してやろうと思ったけど、どうやらお前はウォルトの子どもではないみたいだからな」
やばい。この暗殺者は相当狂っている。
「二十年ってことは……ウォルトがマイデン家にいた頃から?」
「ああそうさ。あいつが仕えた家に俺も一緒に入ったけど、ウォルトは女にモテるからな。余計な虫が付かないように暗殺者としてちょっと暴れたら速攻で追い出された」
そりゃそうだろう!!
まさか俺が産まれた頃にこんなヤバい暗殺者をマイデン家に入れていたことが何より衝撃だ。
ウォルトが気絶から復活して話を纏めてほしいが、どうやら暗殺者が何か術を仕掛けているらしい。
「おれはウォルトと二人で静かに暮らしたい。だから惑星探索の話があった時に嬉々として参加したんだ。なのに、こいつは俺に見向きもせずに他の男達に仕事を斡旋して……」
男の嫉妬は恐ろしい。これはウォルトを殺して一緒の空間で生きていたいくらい危ないレベルだ。
どうにか彼と交渉してウォルトを元に戻さなければセーニャもティルも救えなくなってしまう。
それに、結界がどうなるのかさえ不明だ。
「ウォルトを解放してくれないか」
「嫌だ」
「ウォルトが居ないと、惑星探索そのものが出来ないんだよ」
「そんなことはどうでもいい。おれはウォルトと二人で暮らしたい」
ああ、このままでは堂々巡りになってしまう。
しかし俺は変態暗殺者とのやりとりで十分時間を稼いだらしい。
ターニャが後ろでこっそり聖職者の解毒魔法を唱えた。




