第26話 VS アルヴァン ②
この空間一帯が魔力を遮断すると言っても当たり前だがディオギスには通用しない。とは言え魔獣となったアルヴァンに自分の剣術が通用するかどうか。
「剣士になった俺に魔法使いのあんたが立ち向かって勝てると思っているのか?」
「随分強気だな。私が例え魔力を使えない状態だとしても、ティルなき今敵はない」
魔物は二本の牙から白い息を吐き出し、巨大な手を振り翳した。風の刃のようなものが一瞬見えたので慌てて回避する。
あれは衝撃波なのだろう。刃が当たった場所は木々が真っ二つに折れ、ディオギスの服にも亀裂が入った。
直撃を喰らったら間違いなく死ぬ。確かにアルヴァン自身が言うように魔力が使えない状態であろうとティルくらい早く動けなければ敵はいない。
地下にいる二人を回収したくとも隙がなければそれも難しい。
そうだ、意思の力でもしもティルファングの能力を上げられるならば?
普段はその呼びかけでティルが召喚されるのだが、もしかしたら剣そのものが強くなる可能性もありえる。
どのみち策なんてないのだから、やるしかない……!
「俺は、最強、最強最強最強……!」
ぶつぶつと祈りのような言葉を発した俺を見かねてアルヴァンは巨体の首を振った。
「かわいそうに、強き者に遭遇したことでおかしくなったのですね。では、一思いに殺して差し上げますよ」
「俺は、世界最強の剣士だっ!!!」
アルヴァンが右手を再び振り翳したと同時に、ティルファングから炎を纏った風の刃が敵の両足を捉えた。
「灼風刃舞!!」
追撃で更に炎の渦がアルヴァンの左手を焼いた。右手ではなく左を狙ったのは、一度再生させているので魔力の使えない今再生速度が落ちると踏んだからだ。
ディオギスの読み通り、左手は再生せずにアルヴァンは不意に襲われた足元の炎の刃を消すのに奮闘していた。
彼ら魔法使いは先読みの天才で何通りも戦闘の流れを読むことに長けている。しかし、最初から自分が100%勝利すると確信している場合はその未来がぼやけてしまう。
まさに魔力を持たないディオギスに負けるはずがないという慢心が呼んだ結果であった。
これを好機に、アルヴァンの胴体を蹴り高く飛ぶ。
「うおおおおおっ……!!」
伊達に大陸最強の剣士にくっついてコロニーを旅してたわけじゃねえんだよ!
ディオギスの剣戟はついにアルヴァンの左眼を斬ることに成功した。また再生に力を注がれる前に鼻頭から真横に一閃して右眼も潰す。痛みと出血で堪らずアルヴァンは悶えた。巨大化していた体躯は人型に戻り、身体からはぶしゅぶしゅと白い煙を放っている。自分で魔力を封じる空間を作り上げたせいで再生が出来ないのだ。
「くそっ、ティルを封じる為に虚無の牢獄を展開したと言うのに……ここは一度引くとしましょう。エリオーネを乗せなさい」
「そうはさせるかっ!」
エリオーネを咥えようとしたドラゴンの間に入り、ディオギスは再び衝撃波を展開した。
「俺は最強最強最強最強最強!」
意思の力というものが本当に最強らしい。
ティルファングがまた新しい力をくれるのが肌でわかる。今ならこのドラゴンも斬れるのではないか、という高揚感に剣先をドラゴンの額に突き立てる。
「エリオーネは一旦預けておきます……ですが、こちらにはセーニャがいることをお忘れなく」
逃げ足だけは早いようでアルヴァンはエリオーネを連れ帰るのをあっさり諦めると漆黒のドラゴンに跨り空を駆けた。
アルヴァンが消えたことで茜色の空は再び青天を取り戻し、重々しい空気の流れが消えた。




