第24話 魔力暴走
豹変したエリオーネは体内から溢れる魔力に押しつぶされそうになっていた。今はとにかくこれを放出しないと身体が壊れてしまうようだ。
「エリオーネ、愛しのお兄様がお前の器になってくれるよ」
『アアア、ウツワ……ウツワ……!』
姿こそ人型ではあるものの、彼女は既に魔物と化していた。
「 氷結連鎖、凍てつけ!」
エリオーネがディオギスに向かって特攻してくるとほぼ同時に彼の立っている足元から氷の鎖が無数に飛び出てエリオーネの足を絡めとった。
氷の鎖は羽や足をぎちぎちと縛り、ついにエリオーネは飛ぶ力もなく地面に崩れ落ちた。
「まさか……」
こんな魔法をディオギスが使えるわけがない。聖職者と思い込んでいたターニャも姉と同じ魔法使いだったのか。
そうか、だからターニャが死にかけた状態から目覚めた時に彼女の口調がいつもと違ったのか。
しかしターニャがここにいると理解していた魔法使いの男は表情ひとつ変えることなく氷に拘束されて動けないエリオーネの魔法を指を弾くだけで燃やした。
「ふむ。やはりターニャはきみと行動を共にしていたか。彼女も返してもらうよ。我々にはエリオーネと双子の力が絶対に必要なんだ」
「断る。女の子をあんな化け物にしちまう魔法なんてとんでもない。俺が、エリオーネもお前から救出する」
ティルファングを構えて謎の男を睨みつけた瞬間、心臓が突然熱くなった。
「あ──?」
男は全く動いていないのに、氷の巨大な刃がディオギスの心臓を貫いていた。出血と強烈な痛みで意識が朦朧とする。口から吐血した瞬間、これはまずいと察し、ティルファングに呼びかけた。
「ティル! 俺の命を喰っていいから、そいつらを倒してくれ……!」
ディオギスがもう一度口から血を吹き出した瞬間、漆黒のティルが剣から飛び出、対峙する二人を睨みつけた。
「ディオギス……もう少し早く呼べよ」
剣から出てきた同じ姿の人間に苦笑されるが、出来るだけ彼に頼りたくないディオギスの心境は複雑だ。
「あいつはアルヴァン。魔力が暴走した子ども達をとっ捕まえて研究している悪い奴さ」
そういうとティルはディオギスが受けた傷口に直接手を添えた。
「創世神の加護を持つ者に、もう一度命の息吹を」
ティルの手から暖かい光が放たれ、ディオギスの体内に溶け込んだ。出血はすぐに治り、傷口もみるみるうちに修復した。
「ほう……あれが魔力を持たないディオギスくんの秘密兵器か。是非ともあの謎の剣は研究材料として持ち帰ろう」
鼻息荒くそう言ったアルヴァンは地面を這いつくばるエリオーネに右手を翳して彼女の潜在魔力を無理矢理暴走させた。
『あ、あああああ!』
「──さあエリオーネ。愛おしいお兄様とその得体の知れない奴、どちらも食べてしまいなさい。食事が終わったら帰りますよ」
エリオーネが魔物に完全に変化する前にティルの斬撃は二人の間に結びつく魔力の鎖を断ち切った。
地面に顔面からずしゃりと崩れ落ちるエリオーネをそのままに、ティルはアルヴァンに斬りかかった。
「接近戦は、得意ではないのですよ」
「だろうな」
魔法使いの最大の弱点は懐に入られることだ。エリオーネの力を妄信していた彼自身はさほど強くはないらしい。
最初の一撃は躱されてしまったが、ティルの剣戟はアルヴァンの左腕を易々と斬り落とした。
「なかなかの力ですね……ではこちらも本気でいきますか」
斬られても表情ひとつ変えない彼の腕は、人間のものではなく魔物と同化していた。
魔獣の皮のような筋肉はボコボコ煙を上げながらゆっくりと不気味な“自己再生“を始めた。




