第23話 魔物研究所
「被検体0759、並びに0760」
真っ白な部屋に閉じ込められたわたし達は数時間置きに白衣を着た男達に別室へ連れていかれた。頭にはよく分からない重たい兜をつけられて、こめかみに強い電流を流される。
流れてくる言葉はよく聞こえないけど、とにかく頭が割れそうに痛かった。
暴れても椅子にはベルトがしっかり固定されており、動いてもただ皮膚を傷つけるだけ。そして手首に追加で変な注射を打たれて全く抵抗できなくなった。
隣で泣いている妹は時々魔力を暴走させてガラスを吹き飛ばしている。手を伸ばして妹を抱きしめたいのに、この距離ではそれすらも叶わない。
「ねえ、ターニャ。ここに居たらわたくし達は死んでしまうわ」
「お姉さま、それはわかっておりますけど、どうやって逃げるのです? 監視は多いし、行くあてもないですし」
全てを諦めている妹の頭をそっと撫でる。
「今、このコロニーに惑星探索に向かう船が近づいているらしいですわ。その船に乗り込むことが出来れば……」
「そんなに都合よく行きませんわ。見つかって殺されるのがオチではないですの?」
「わたくしは賭けたい。もう一度外に出たいの。こんなところで魔力を得るための器として死にたくない」
外を見たい。もう一度空気を吸いたい。幼き双子の願いはたったそれだけだった。
毎日研究と称して電流を流されて頭の中を覗き見される。反抗すると死、抵抗しても魔力を奪われて動けなくなる。
生かすも殺すもこの研究所の人間次第で、魔物以下のような扱いに二人は生きることを諦めかけていた。
その中で彼女達を救ったのが「勇者様」の話だ。
偶然見つけた童話の中に勇者と呼ばれる存在が、悪を倒して世界を救うという実にシンプルなものだったが、彼女達はその勇者様が世界を救うついでに、この研究所を壊してくれないだろうかと切に願っていた。
「──その話、わたしも乗り掛かっていいかな?」
この研究所で仲良くなった同じ擬似魔力を扱う少女、エリオーネがおずおずと話しかけてきた。
「エリオーネ、ええ。ええ! 三人ならきっとうまくいくわ」
◇
見回りの時間は決まっている。そしてそれが交代する時間、研究とお昼寝の時間。
イレギュラーが発生すると、政府の偉い人間が危険な強い魔力を持つ子どもを物色しにくる。そして彼女らはその魔力で傷つけられても自然治癒力が高いので金持ちの嗜虐心を刺激する。
中には魔力を封じる首輪をつけられて見せ物のように連れて行かれた子どももいた。
日に日に減る仲間達は殺されたのか、暴走して死んでしまったのか確認する術はない。
ここでただ死を待つくらいならば、一縷の望みに賭けようとついに三人は行動を起こした。
迷いの森を抜けて走る。すぐに警報が鳴り響き、厳重な警戒体制が敷かれた。その中で惑星探索に旅立つという目的の船をようやく見つける。
「あっ!」
「エリオーネ!」
走ることに全く慣れていない彼女達の足はボロボロだった。何度も転び、足はもつれ、指先から血を流してとにかく光を求めて走った。
「ごめん、もう無理……二人で逃げて」
「ここまできたのにそんなこと出来ない!」
「このままだと、わたしのせいでセーニャもターニャも殺されてしまう。どうか、わたしの分も生きて」
「やだよ……エリオーネ……」
共に過ごした戦友をぎゅっと抱きしめる。もうすぐ近くまで捜索隊の声が聞こえてきた。
ドン、と船の方にセーニャは身体を押し込まれる。エリオーネは口元に笑みを浮かべ、親指を立てた。
「またね!」
さよならではない。また会えると信じて。
勇者様がきっとあなたを迎えにきてくれる。だから、それまで待っていて。必ず魔力をコントロールして迎えにいくから。
星を渡る船の前にたどり着いた瞬間、セーニャは神々しい光の祝福を受けた青年にであった。
銀色の髪に引き締まった体躯。彼からは全く魔力を感じないのに、強力な神の加護を受けているように感じられた。
その存在に出会えたことにセーニャは涙を流した。
「ああ、勇者様……わたくし達を、救ってください」
「えっ、え!?」
目の前で気絶した二人を治療する為に船に戻ったディオギスに、研究所の追跡の手は一歩届かなかった。
セーニャ達は命を救ってくれたディオギスらと共に未開発惑星探索へ向かうこととなる。




