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第21話 魔力供給


 地上に出ると漆黒のドラゴンに跨る女性が俺の顔を見るなり満面の笑みを浮かべた。


『お会いしたかったです! ディオギスお兄様!』


「きみは、誰なんだ……?」


『ご挨拶が遅れましたわ。わたしはエリオーネ・マイデン。お兄様と同じく、五歳の時にマイデン家から追放されてしまい、今はこの惑星にアルヴァンと一緒に来ておりますわ』


 何よりも怖いのは、彼女が使役している漆黒のドラゴンだ。どう考えてもこの近辺の魔物では無さそうだし、あれが暴れたらこの周辺の大陸が吹っ飛びそうな気迫さえある。

 エリオーネと名乗った彼女からも強力な魔力を感じ、肌がざわつく。息を吸うのも難しいくらい、重だるい風が辺りを支配した。


「俺をなぜ知っている?」

『ディオギス様は有名ですわ。魔力が無いのに剣を持って戦うと』


 ああ、そのことか。


 剣は鉱物ではなく、全て魔力から造られる。

 擬似魔力を持たないディオギスが一体どこから剣を得てそれを扱っているのか、実は他のコロニーでも彼を調べたいと思っている人間が多いらしい。

 ただ、それが実行されることなくディオギスが今日まで無事に過ごしてきたのも、歴戦の猛者であるウォルトと行動を共にしているからだ。

 彼を敵に回したくない人間達はディオギスのことを調べるのを諦めた。そんなところだ。


「この剣はとある鍛冶屋の娘さんに貰ったやつだ。その子の魔力から造られたのかは知らない」

『鍛冶屋の娘……? 鍛冶、とは何ですの』


 エリオーネと名乗った少女は不思議そうに眉を寄せた。確かに魔力を練って剣を生み出す工程とは無関係の人間からみるとかなり異色だ。


「さっき、あんた追放されたって言ってたな。何やらかしたんだ?」


『ディオギスお兄様と逆ですわ。擬似魔力が暴走して人を殺しました』


 擬似魔力の暴走。それは2000年前に産まれた子どもに魔力を植え付ける頃から頻発している。酷い時は化け物に姿を変えたり、理性を失って殺人鬼になる場合もある。

 それがいつ発症するかは分からないが、擬似魔力がなければそもそも生活が出来ないので、魔力は諸刃の剣と分かっていてもそれをやめるという手段はなかった。


「人を、殺した……?」

『はい。ざっと30人くらいでしょうか。あまりにも暴走が酷くて五年程、魔力を打ち消す牢に閉じ込められておりました』


 何よりも怖いのは、彼女が表情ひとつ変えずにそう話すことだ。しかも俺に会いたかったと笑顔なのがまた怖い。


『ディオギスお兄様にお会いしたら、わたしの魔力を受け取っていただけると思って!』


「魔力を、渡せるのか!?」


 それなら俺は強くなれる。元々、ここに住む魔物から魔力を供給して、自分の擬似魔力に転換出来ればいいと思っていたくらいだ。それがこんな簡単にことが進むならランクの高い魔物も倒せるだろう。


「頼む、エリオーネ。初めて会った妹にこんなことを頼むのは申し訳ないけど、俺は魔力が欲しい」


『うふふ、そう言ってくださると思っておりましたわ。では、お兄様わたしの側に──』


 魔力供給とはどうするのか聞いたことが無かったので、俺の心臓は高鳴っていた。

 これで俺もセーニャのように強くなれる。よく分からずに妄信される名前だけの勇者様じゃないと胸を張って言いたい。

 そして寿命を食い潰すティルを召喚しないでことが進むならそれで。


『魔力供給は、体液交換になりますの。だからお兄様、わたしにキスをしてください』


「はあ!? そ、そんな……」


 じゃあ、魔物から魔力供給をする際も同じなのか。うわ、そんなグロテスクなことは想像もしたくない。

 かと言って実の妹とそんなことをするのも気が引けると言うか……。

 

『お兄様、早く……』


 瞳を閉じて小さい唇を突き出すエリオーネは確かに可愛い。可愛いけど、彼女は妹なんだぞ。ここで踏みとどまらなければ。

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