第20話 謎の少女
ターニャの光魔法で松明を作り、壁や棚を重点的に探す。霧がない分視界はだいぶ開けていた。魔力を使いすぎて既に眠っているリオは近場にあった古ぼけたソファーにそっと横たわらせた。
「なんか、本当につい最近まで誰か住んでいたみたいだな……」
建物の根本的な作りは2000年前のものに近く、崩壊しているところを見ると材質は魔法使いの魔力が殆どなのだろう。
しかし地下はほぼ原型を留めているので、上に人間が住むまでの間、地下で何者かが生活していたと思われる。それが何千年前かは分からないが。
「ここに古代文字の本がありますぅ……これは私には読めないですけど、持っていきましょうか?」
「ああ、ウォルトなら読める人を見つけてくれるかも知れないしな」
日記らしきものと、鍵のかかった本が3冊、そして何も記載のない黒い表紙の本とターニャが見つけた古代文字で書かれた朽ち果てかけている本がここの収穫だった。
「ディオギス様、強い気配が近づいてきてますぅ」
小粒の魔物を討伐すると必ず親玉が誘き寄せられる。もしかして、あちこちに生息している小粒の魔物は倒さない方が安全なのだろうか。
しかし今回の敵は魔力を持たない俺でも分かるくらいヤバイ奴だ。衝撃波だけで身体が痺れて動けない。
おまけに、かなり遠くから聞こえた雄叫びのせいで鼓膜が破れそうだ。
「くそ……逃げるにしても……」
「階段を隠しますぅ。あとは魔力を隠してこの影に隠れましょう」
敵に気づかれないようにターニャは階段を魔法で隠し、眠っているリオを担ぐと本棚裏に身を隠した。
一方の俺は魔力を持たないので姿さえ見つからなければどこにいても相手には分からない。
少しずつ魔物の咆哮が近づく。鼓膜を劈くような迫力に身体の震えが止まらない。
ドスン、と地面に何かが降り立ったようで、天井がミシミシと歪み、汚い土埃が舞った。
思わず目が痛くて声が出そうになったが、そんなことを気にしている場合ではない。息を止めてただじっと相手が消えるのを待つ。
巨大な魔物は階段を降りるという面倒な手段は絶対に使わない。そもそも、階段を使うのは魔物ではない人間だ。人間が縄張りにしていた場所を魔物が今や占拠しているのだろう。
『ディオギスお兄様、この辺りにいるのはわかっているのよ。出てきてくださらないかしら』
天井から聞こえてきたのは女の声だった。しかも、はっきりとディオギスお兄様と言った。
俺より後に産まれた子の情報は皆無だが、その女が仮に兄妹だとしてもマイデン家が魔力を持つ人間を手放すわけがない。
「誰だ……」
相手を確認したくとも迂闊に動くのは危険だ。何よりも得体の知れない人間には関わらないのが一番だ。
『おかしいわ。ここにディオギスお兄様の気配を感じたのに。せっかくわたしの魔力を受け取ってくださる器が近くにいるのに、残念ですわ……』
「魔力を受け取る器だと……!?」
「ディオギス様ぁ、これは罠ですよぉ、罠ぁ」
「しかし……」
小声でターニャが止めてきたけれども、俺は元々魔物から魔力を得る為に旅をしてきた。
ここで妹が俺に魔力を与えてくれるのであれば、今よりもすぐに強くなれるチャンスだ。
「ごめん、ターニャ……俺は、強くなりたい……!」
「ディオギス様!」
これから先はもっと強い魔物が出て来るだろう。俺が魔力のないまま、ティルに頼りきりであれば惑星探索よりも先に寿命の方が尽きる可能性が高い。
なるべくティルに頼らずに魔力を扱うことができれば──!
彼女の制止を振り切り、俺は隠していた階段から地上に出た。




