第2話
「だから、お前くっつき過ぎなんだよ」
「またディオギス様にあいつが攻撃したらわたくしは勇者様を守れない無能な魔法使いになってしまいますわ……今度は失敗しません」
また、と言われてもその記憶が欠落しているので返答に困る。
もう一度自己紹介してくれたこの女はセーニャという名前で18歳。俺よりも3歳も若かった。
どうやら以前、俺が彼女ともう一人双子の妹さんを助けたらしく、その時から俺の事を勇者様と妄信してついてきたらしい。
いつ彼女を助けたのか全く記憶にないし、本当に俺が勇者と呼ばれる存在ならば、産まれた時に擬似魔力がついたはずだ。
マイデン家は彼女のように魔法使いや神官を多数輩出してきた名門なので、魔力がない異端児の俺は5歳の時に即追放された。
「……俺について来い」
元々マイデン家に仕えていたウォルトは見捨てられた俺を哀れに思ってくれたのか、コロニーを共に出た。
それからはあちこちのコロニーを転々とする生活だったが、新しい人との出会い、そして魔物討伐による報酬と力を持たない人から感謝されることは嬉しかった。
魔法の使えない俺に、ウォルトは剣で身を守る術を教えてくれた。それだけではない。世界のことも沢山教えてくれた。
どうやら、コロニー外にある未開惑星には魔力を提供する魔物がいるらしく、そいつを殺して自分の魔力に還元することが出来るらしい。
あの家に戻りたいとも復讐したいとも考えてないが、ただ俺を虐げた奴らを魔法で驚かせて土下座くらいはさせてやりたい。
「ウォルトの情報だとこのあたりか……」
「ディオギス様、20キロ程先に大きな気配が二つ、小さな気配が40程」
「……多いな」
高魔力のセーニャは魔物の気配を玉の大きさで感じる事が出来るらしい。
「小さな気配の方は二人で蹴散らせるだろうが、大きな気配が二つってのが気になるな」
「はい。しかも、魔物とは違う色です」
「行ってみないと分からないか……」
真面目に黙考している間にまたセーニャは豊満な胸を俺にくっつけてきた。
「あのなあ、もう少し離れてくれないか? 俺のティルファングに当たるぞ」
「大丈夫ですわ。ディオギス様の剣はわたくしを斬ることは出来ませんから」
よく分からないが、彼女は俺の持つ剣について理解している。
魔力を持たない俺はウォルトと放浪したとあるコロニーで剣を作る珍しい職人に出会った。
確かその男の娘であるイリアと呼ばれる少女が俺をみた瞬間、俺にしか使えないという剣を作ってくれたような。
「──ッ」
やはり記憶が奪われているらしい。碧眼の少女の笑顔がブレる。
突然頭を抱えた俺をみてセーニャが何か魔法をかけてくれた。
「……ほんのお守り程度ですが、ディオギス様をお守りするようシールドを張りました」
「ありがとう」
「あの魔物を倒しても記憶が戻るとは限りません。ですから、ディオギス様は攻撃を喰らわないようにお気をつけくださいまし」
片手剣を扱う人間は敵の懐に入るので、攻撃を喰らわないようにというのはなかなか難しい。
とは言え、彼女に甘えてばかりでは折角剣やコロニーから出て生きていく術を教えてくれたウォルトに面目が立たない。
俺は、魔力を提供する魔物を倒して力を吸収するまでは剣士として生きるんだ。




