第15話
「随分派手にやってきたみてぇだな」
「……」
俺はセーニャに頼まれた通り、まずチップをウォルトに渡してから怪我人を2階に寝かせた。特にターニャは見た目の傷に反して意識が戻らない原因が分からない。そしてもう一人の人間は手足が溶かされているので、出来れば早く治療をしたかった。
「ウォルト、聖職者はいないか?」
「うむ……今ちょうど別のチームと西の魔物討伐に出て行ってな」
「そんな……このままだとこの子も」
魔物から救い出した少年は今にも命の灯火を消えそうになっている。しかしウォルトも俺も剣士なので魔法は一切使えない。
「セーニャから魔石を預かっていないか?」
「ああ。持ってはいるけど、回復魔法はないよ」
「いや、使用済みで大丈夫だ。俺に一個貸せ」
先ほどの戦いで幾つか使用済みの魔石が出ていたので、それをウォルトに渡す。
ウォルトは重装剣士として以前とある軍団にいたと言われているが、彼が回復魔法を使えるという話は聞いたことがない。
何をするのかと思いきや、彼が結界を張るのに使用している創世神イリアの加護を持つと言われている女神像に魔石を当てた。
「──蘇生魔法を」
短い祈りが力となり、使用済みの黒い魔石は眩い光と共に聖魔法を注入された白い魔石へと変化した。これが魔法を使えない人間が扱う特殊な魔力なのかとウォルトの顔を見上げる。
「ウォルト……それは?」
「──創世神イリア様の加護だ。今回はお前達のチームに大きな貸しになるぞ」
ぽんと手渡された二つの聖魔石を受け取り、俺はターニャと名前も知らない少年の前に翳す。
すると魔石に込められていた強大な魔力が彼女達の傷を一気に修復した。
「す、凄い……これが創世神の魔法?」
「ああ。だがイレギュラーなことだ。絶対に誰にも話すな。あの双子にも、だ」
「……分かった」
ウォルトはこの未開惑星の拠点を常に守る立場にあるので、彼の命令は絶対だ。
万が一、彼や結界を張る行為が妨げられた場合、惑星に巣食う魔物から身を守る術が無くなってしまう。
だからセーニャはあの時己の命を賭けて廃墟にひとり残ったのだ。この場を守るために……
「ディオギス、あの廃墟をもう一度探索してこい」
「でも、俺だけじゃあ……」
「セーニャは今後の高ランク魔物討伐に必要な人材だ。お前を妄信している彼女なのだから必ず助けてこい」
そうだ。まだセーニャが死んだと決まったわけではない。確かにかなり強力な魔物に襲われていたが、得意の魔法で追い払っている可能性は残されている。
「……そうだな、俺があいつを助けられなかったらもう勇者様と呼ばれなくなっちまう」
まだ勇者様らしいことなんて何もしていないけど。
それでも、セーニャが妄信的に俺を勇者と呼んでくれるから魔力が無くても誰かの為に戦う力が湧いてくる。
「うむ。決まりだな。魔石からの回復魔法の効果はすぐに出るはずだ。ターニャ達が目覚めるまでお前も少し休め」
そういえばティルを召喚してからずっと身体の重だるさを感じていたのを思い出す。
ウォルトの言葉に、俺は一気に襲ってきた疲労に身を委ねて重い瞼を閉じた。




