第13話
「ティルは、ディオギスがピンチの時に出てきてくれるの」
なんだよ、そのチート能力。魔力のない俺にカミサマが与えてくれたやつってか?
「でも、力を使うことで代償を支払わないといけない。乱用するとディオギスは──」
おい、イリア教えてくれ! ティルの力を使うとどうなるんだ俺は!
でも、このままだと俺は無力だ。ランク1の魔物ですら自力で倒せないのに、これ以上強い魔物が出てきたらどうする。
「解決方法はあるよ」
そうだ、それが知りたいんだ。
俺が、もっと強くなる為に──!
「よっ……と」
ティルは人間が取り込まれた核部分まで飛んでいた。この人間ごと核を始末するか、それとも核だけ何とか壊して人間を取り出すか。
「うんまあ、完全に身体は取り込まれているし、もう死んでると思うけどな」
中から人間の生体エネルギーは感じない。多分手遅れだろうけど、ディオギスが助けたいと願ったのでやるしかない。
ティルは己の握る剣を白く輝かせると瞳を閉じた。
「唸れ、ホーリー・ジャッジメント」
瞬間、ティルファングは2対になり、魔物の核部分を左右から同時に貫いた。あれでは中の人間まで貫通しているのではないかと思ったが、不思議な白い剣は魔物の体から取り込まれた人間だけを器用に取り出される。
「お、っと……」
魔物から引き剥がされて地面に落ちる前に少年を抱き止める。大分敵の消化液に溶かされたものの、助けた人間はまだ生きていた。
しかし、核を潰された蜘蛛の魔物はヒビの入った甲殻と人間を失った部分から緑色の体液をぶしゅぶしゅと四散させてきた。
「く、臭っ!」
「あー、ディオギス気をつけろ。それ猛毒だからな」
喰らうと死ぬぞなんて軽口を叩かれ、俺はティルが救出してくれた少年を肩に抱えたまま、慌ててセーニャの元まで走った。
「あと後ろも気をつけろよー。まだまだこの魔物、体液飛ばしてくるからな」
「う、おおおおお!?」
ケラケラ楽しそうに話すティルは多分そんなもの喰らっても問題ないのだろう。剣から出てくる不思議な青年は謎が多すぎる。
「はぁっ……はぁっ!」
ティルを召喚した影響なのか、いつもより体力はないし、頭もクラクラする。しかし飛んできた猛毒の体液はセーニャが炎の矢を飛ばしてくれたお陰で、直撃を浴びずに済んだ。
「ディオギス様!」
「はぁ、はぁ……何とか……連れてきたよ」
セーニャの前に抱えてきた少年をそっと地面に下ろして心音を確認する。かなり弱っているが、まだ息があった。
「ターニャが目覚めたら彼を治療してもらいますわ」
「助かる。俺はあの蜘蛛の魔物を──?」
くるりと振り返るとそこには完全に沈黙した魔物の死骸だけが転がっていた。そしてティルの姿は既になく、キョロキョロする俺を訝しげにセーニャが見つめていた。
「ディオギス様、いかがなさいましたか?」
「いや……蜘蛛の魔物が……死んでる?」
「ええ、ディオギス様がこの御方を救出されて倒したではありませんか」
やはりおかしい。セーニャもティルの姿を確認しているはずなのに、彼女はディオギス様は相変わらず格好良かったですと頬を赤らめている。
俺の手には確かにティルファングが戻っており、その刀身は先ほどティルが剣の形状を変えた時と同じ白い光を放っていた。




