60 これから
ソニアとヒカリ。フィオナとヒカゲがやっている訓練を見た後、湖のほとりにある家へと戻り、庭に置かれた木の椅子に、ゆっくりと腰を下ろす。
「落ち着いて来たな」
騎士団から追放されてどれぐらいの日付が経ったか?
アンジェロとバッツの思惑で王都から追放され。一時期はどうなるこのやらと不安になったが。故郷であるサンベリル村に戻ってきて、みんなに暖かく迎え入れられてもらい、ソニアとフィオナを鍛えることになった。
そこにヒカゲが合流して。ソニアとフィオナの成長を見守りながら時間を過ごして。
「楽しかったな」
ミノタウロスの群れを倒す途中でヒカリと合流して。
バッツの最期を見た。
「最後までバカな奴だったな……」
自分の最強を信じて疑わなかったあの男。根拠なき自信を持つことは悪い事じゃない。しかし、時にそれは自分の苦しめることになる。
「アイツと出会った時は幾つぐらいだったんだろ」
オレが騎士団に入った時にはもういい歳だったはずだ。それでも鍛錬を続けてあの強さを維持していたというのは素直に尊敬に値する。
「小さい頃に出会っていて、オレが鍛えられてたら……。なんて」
いつもの悪癖。もしもオレが鍛えられていたな、なんて考えても意味はない。
「あー……。寝そうだ」
バッツはオレを追放して。多くの人に迷惑をかけて。仲間すら蔑み死んでいった。
それだけだ。
「お兄ちゃん!お風呂借りていいかな?」
不意に頭上から声が降ってくる。目を開けると、ソニアが汗と土にまみれた顔でじっとこちらを覗き込んでいた。まだ額には薄く砂がついている。
「ソニア。ヒカリに喰らいついていけるようになってたな。偉いぞー」
「えへへー」
褒めてやると、素直な笑みを浮かべて喜ぶ。うむうむ、素直なのはいいことだ。
横から足音。ヒカリの服も軽く汚れ、額に汗をにじませていた。落ち着いた様子で腕を組み、こちらを見ている。
「ちゃんとゆっくり過ごしているのね」
「ヒカリがオレからソニアを取り上げたんだろ?本当はオレが付きっ切りであれこれしてやりたいのに」
「いじけないでよ。魔眼の後遺症で目が見えてないんでしょ?暫く休んでなさい」
そういうことで、オレはゆっくり過ごしている。目が見えないわけじゃないが、あまり激しく動くと目が追い付かず、酔ってしまうのだ。ソニアとフィオナの模擬戦に付き合えるほどの余裕はない。
「みなさん揃ってたんですね」
そこへフィオナとヒカゲもやってきた。
汗で服を湿らせているフィオナと、何事もなく立っているヒカゲ。
「どうしたんですか?」
「風呂に入るんだとよ。せっかくならみんなで入ってきたらどうだ?」
提案に、「げっ」とあからさまに嫌な表情を浮かべるヒカゲ。その肩をヒカリが既に掴んでいた。
「いい提案ね。それじゃあ、行きましょうか」
「い、いや。4人は狭くない?わたしは別に疲れてないし」
「まあまあ。今日も付き合ってもらったので。お背中ながしますよ」
「いらないから」
「ほら!早く行こうよ!もうくたくただよ!」
ソニアとフィオナに手を引かれ、ヒカリに肩を掴まれ、みんなは家に入っていく。
騒がしかった庭先に静寂が戻ってくる。
「平和だな。……とも言ってられないけど」
傭兵ギルドからの依頼書がまだたまっている。火山の麓にあった村のことを思うと、積極的に依頼を熟していった方がいいだろう。
ソニアとフィオナも鍛えてやらないといけないし。
ヒカリとヒカゲはいてくれるけど、魔眼を使うと副作用があるし。
「やれることをやっていくか」
家の中から水音と笑い声が聞こえてくる。それが心地よく、意識はゆるやかに眠りへと沈んでいった。




