3 追放3
「さっきぶりだな、ルーカス」
「バッツ、お前」
「おかしなことするじゃねえぞ。お前が言ったんだぜ?俺に敵わねえってな」
言いながら、バッツはまるで最初からそこが定位置だったかのように堂々とアンジェロの隣に立った。こちらを一瞥すると、バカにしたように鼻で笑う。
「バッツはお前がいかに怠惰で!依怙贔屓をし!騎士団を弱体化させていると!我々に報告してくれていたのだね!」
「え、依怙贔屓?待ってください!オレは依怙贔屓なんてしていません!全ての部隊を平等に訓練しています!」
叫ぶが、アンジェロには取り付く島もないない。
「バッツお前、そんなこと思っていたのか」
「事実だろ?お前は他の隊にばかり指導していた。俺たち六番隊を放っておいてな」
「そんなことはない。オレは平等に」
「この期に及んで言い訳は聞きたくねえぜ。ルーカス」
こいつ、どういうつもりだ?むしろ訓練の出席率がいい六番隊とは多くの時間を共にしていたはずだ。掛けた時間で言えば一番と言っても過言ではない。
それなのに、どうして。
「ルーカス」
重く、響く声。恐る恐る騎士団員の方を見る。
「お前はクビだ」
言葉は短く、容赦がなかった。まるで判決のように。胸にじん、と重いものがのしかかる。反論したい言葉が喉まで込み上げるが、それを押しとどめるように、騎士団長の瞳は一切の情を拒んでいた。
「ま、待ってください。オレは」
「うるせえルーカス!俺はもっと強くなりてえんだ。お前みたいな奴が教官じゃ、得られるものなんてなにもねえんだよ!」
「全く!恥を知れ!教官長である!わたしの顔に泥を塗りおって!無能!貴様は間違いなく、歴代の教官の中で!一番の!無能なのね!無能!さっさと消えろ!無能無能無能!」
騎士団長のことはわからない。この人の考えはオレでは読み切れない。ただわかるのは、アンジェロとバッツ。こいつ等はオレを騎士団から追放したいということ。
「……騎士団長。クビというのは、詳しくはどのような処分でしょうか?」
言葉が喉の奥でひっかかり、かすれる。それでも、最後まで言い切った。納得はしていない。だが、ここで言い合えば相手の思う壺だ。そう自分自身に言い聞かせるように、拳を握りしめる。
「お前はアンジェロと私の評判と著しく落とした。その責任の重さから、王都セントラルからの追放。及び、金輪際王都騎士団への接触の一切を禁ずる」
「……はい」
オレの返事には力も意志もない。ただそう答えただけ。ここで言い返したとしても、好転することなど何もないと、察してしまっているから。
「甘い!甘いのね!こいつが3年間教官をやったことでどれだけの騎士が弱くなったか!それがどれだけの!損害か!この無能男が!このバカは!」
「そうだぜ団長。今回の件で俺は」
「黙れ」
騎士団長の言葉に、アンジェロとバッツが唾をのむ。
「コイツが私の騎士団にしたことだ。全て私が決める。よろしいか?」
何も語らぬ瞳に、迷いはない。あるのは『黙して従え』という圧。
「わ、わかったのね!お前がそう言うなら!それでいいのね!」
「俺も、意義はありません」
二人は居心地が悪そうに口を閉じる。
「最後に。なにか言うことはあるか?ルーカス」
そう問いかけられ。
「王都騎士団の活躍を、陰ながら期待しております」
そう言い残して、オレは部屋を出た。