2 追放2
……はい?今なんて?
「もう一度お聞きしてよろしいでしょうか?」
「無能なくせに。耳まで遠いなんて。つくずく使えない男なのね。お前は」
なんかいきなり悪口いわれた気がするが。
「お前はクビ!すぐにここから出ていくのね!」
太く短い指を必死に振って、お前はクビだと言い伝えてくるアンジェロ。
突然のことで事情が呑み込めない。助けを求める意味で騎士団長を見るが、相も変わらず鋭い目つきでこちらを睨みつけている。
どうやら冗談などの類ではなさそうだが。
「私がなにかしたでしょうか?」
「した!したでしょうが!お前が悪いことを!」
「わ、悪いこと?」
ここ最近のことを思い返す……が、なにも思い当たらない。
「いや!してない!してないよ!してないのが問題なのね!」
なにを言ってるんだこの人は。全く理解できない。
ああ、頭が痛くなってきた。
「お前をクビにする理由は二つ。一つはお前が何もしないから騎士団が弱くなったと言ってるんだ」
ぴしゃりと騎士団長が言い放つ。
「そうそう!そういうことなのね!お前が仕事しないから!騎士団が弱くなってるのね!」
騎士団長の言葉に心臓が止まりそうになったが、アンジェロのムカつく口調に救われる。まさかコイツの喋り方に助けられる日がこようとは。
にしても、オレのせいで騎士団が弱くなった?
「なにを根拠に言っているのでしょうか?」
「これを見ろ」
騎士団長から受け取った紙を見る。
そこには直近の部隊別任務記録が記されていた。いたのだが。
「これ本当ですか?」
そこに記されていたものは、オレが知っているものとは全くの別物。
「お前はなにを指導しているのね!こんなに酷い結果は見たことないのね!」
「それは、そうですが」
オレが担当を任されているのは王都騎士団、第六から第十部隊までの五部隊だ。その任務成功率が極端に低い。点数をつけるとしたらワースト五を独占している。もしこれが本当だった場合、それは教官をクビにされるのも納得がいく。それほどの成果だ。
しかし。
「待ってください!オレが知っている情報と違いすぎます!」
「ルーカス!お前が!何と言おうと!これが事実なのね!動かぬ証拠なのね!」
「それを言われてしまうと」
なにも言い返せない。オレに部隊の成果は詳しくは知らされていないのだ。
ただ、部隊長達からは成功した任務の自慢話をよく聞かされていたし、他の教官達に『お前の部隊は優秀だな。羨ましいよ』と声を掛けてもらうことは少なくなかった。
それに。
「訓練報告のとき教官長はオレに、お前は上手くやっていると言ってくれていたじゃないですか!」
アンジェロには定期的に部隊の訓練報告をする。その際には部隊の現状や悩み、強味や弱味を報告し、今後どうしていくかを話し合っていくのだ。その時、アンジェロはなにも悪いことを言ってこなかった。それなのに、いきなりこんなことを言われても納得できるはずがない。
「なにを言っているのね?ルーカス」
アンジェロはオレの言葉に「呆れた」と言わんばかりにため息をつく。
「もう一つの理由を伝える」
こちらの問答に付き合う気はないと、騎士団長はオレの言葉を遮る。
「お前が依怙贔屓をしている。気に入った者がいる部隊にしかまともな訓練をさせていないという報告があった」
「そんな。バカな」
「証人を呼ぶ。入って来い」
「証人?」
ガチャリと扉が開き入ってきたのは、先ほどまでオレと喋ってきた大男。
六番隊隊長のバッツだった。